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交響曲並みの打音がジャズを広げる ドラマー森山氏

ドラマー森山威男ジャズを語る(下)

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NIKKEI STYLE

1970年代前半に山下洋輔トリオでフリー奏法で名をはせたジャズドラマー森山威男氏の後編。彼は今、ジャズについて何を思い、どう演奏しているか。4月20日、横浜市のライブハウス「ジャズスポット ドルフィー」でインタビューし、翌21日夜に「森山威男スペシャルクインテット」ライブを聴いた。

「熱湯を入れたフライパンを近づけて天井のムカデを退治している」という岐阜県可児市の自宅から上京し、横浜の歓楽街、宮川町の「ドルフィー」に入った森山氏。70代とは思えないしゃきっとした姿勢と足取り。ここで4月20~21日の2夜にわたり「森山威男スペシャルカルテット」と「同クインテット」のライブを催した。

このうち21日夜の「クインテット」のほうを聴いた。ドラムの森山氏、ピアノの板橋文夫氏、テナーサックスの川嶋哲郎氏、トランペットの類家心平氏、ベースの加藤真一氏の5人。「(ピアニストの山下洋輔氏と)2人でしかできない音楽がある」と森山氏は言いつつも、後輩のミュージシャンらと基本スタイルのフォービートジャズを大いに楽しんでいる風情だ。

フォービート回帰後も随所に噴火するフリー奏法

彼らのオリジナル曲を中心に、いずれの曲もメロディーがはっきり分かり、各奏者の即興のソロが入り、スイング感が伝わってくる。フュージョン風のノリのいい曲も多い。板橋氏のピアノは叙情にあふれ、類家氏のトランペットは夜空へのロマンを感じさせる。

しかしその中で森山氏のドラムだけが異様な変拍子を混ぜたリズムの洪水を浴びせる。美しいバラードでも、途中までせっせとハケでフォービートを刻んでいたかと思うと、いきなりフリースタイル風のはちゃめちゃな不規則リズムと爆音をたたき始める。そうなるとピアノやサックスも対抗せざるを得ない。非常に速いアドリブが各奏者の楽器から繰り出される。フォービートジャズの随所に凶暴なフリー奏法が潜み、突如として激烈に噴火する。「彼らもだんだん慣れてきたようで、もう何も言われなくなった。勝手にたたいていてもいいようだ」と森山氏はとぼけ顔で軽口をたたく。予約して前売り料金4500円で聴いたが、割安と思えるほど充実した内容のライブだった。

75年に山下トリオを退団し、フリージャズからフォービートに回帰したといわれる森山氏だが、そのドラムの衝撃は今なお持続している。20日のインタビューで明かされた彼の持論の続きを聞こう。

――現代のジャズとしては、マリア・シュナイダー・オーケストラなどのビッグバンド、あるいはヒップホップとの融合を感じさせるロバート・グラスパーなど、米国のミュージシャンが最先端として挙げられそうだ。一般論として日本を含め今のジャズの状況をどう思うか。

「過激なことを言うようだが、軟弱だと思うね。聴衆を意識した音楽が多い。山下トリオは聴く人を意識していなかった。そこが大きな違いだ」

 ――聴衆を意識しないところから衝撃の芸術が生まれるのか。

「そうだね。聴く人を意識すると演奏のレベルはうんと低くなる。迎合したり、ウケようと思ったりして何かするわけだから、感情が理性に打ち勝つなんてことは起き得ない。もう非常にそれ自体が冷静だから。つまらなくなるね」

東京芸大で経験したオーケストラのシンバル

――東京芸術大学音楽学部器楽科を卒業した。芸大でクラシック音楽を学んだ影響はあるか。

「クラシックの影響は大きい。ジャズだけ聴いていたらああいうドラムの形にはならなかっただろう。芸大では、特にオーケストラで演奏するようになって音楽観が変わった。トリオやカルテットのような3、4人ではなく、100人近い管弦楽団が音を出すわけだ。統制が取れてものすごい音量で鳴らすところもある。僕は合わせシンバル(2枚を打ち合わせて鳴らすクラッシュ・シンバル)を専ら担当したから、感動が大きかった。シンバルというのは最高潮に達したときにジャーンと大きな音を鳴らす。だんだん音楽が盛り上がってきて、自分もそれを聴きながらうんと高揚してくる。きたぞ、きたぞ、と思いながら立ち上がってついに打ち鳴らす。あれは醍醐味だ」

「ストラビンスキーの『春の祭典』やチャイコフスキーの管弦楽曲などを演奏した。今ドラムをたたいても、頭の中にはオーケストラで受け持ったドラやバスドラムの音が鳴っている。そういうものがイメージとしてずっとある。ジャズドラムのシンバルをスティックでたたくと、ペシャーンていう音がするからちょっと残念だね。本当は頭の中でグワーっと鳴っているので、そういう音を出したいと思っている」

森山氏のシンバルはジャズにしては劇的で壮大すぎる。彼がスネアやシンバルなどドラムのあらゆる部分を使って徐々に音量を上げていくときの響きは何かを連想させる。マーラーの「交響曲第2番ハ短調『復活』」第5楽章やショスタコーヴィチの「交響曲第4番ハ短調作品43」第1楽章に登場する打楽器群の、度を超えるほど異様な強弱差のクレッシェンド(だんだん強く)だ。

――自身のドラムの特徴は何だと思うか。

「大きな特徴は抑揚だ。小さくたたくところと、うんと大きくたたくところと。ジャズのドラマーにはあまり強弱がない。ずっと一定の音量を持続しているドラムが多い。この点が違うのかもしれない」

「もう一つの特徴はだんだん強く(クレッシェンド)やだんだん弱く(ディミヌエンド)があること。音量のグラデーションみたいなものだ。だんだん速くなったり、だんだん遅くなったりもある。これもほかのジャズのドラマーとは違うところかもしれない」

 各人各様のリズムや旋律を奏でながらも、必ず奇跡的にぴったり合う、決まる、という場面が登場したのが山下トリオのフリージャズのすごさだったといわれる。なぜ合って決まる場面が到来するのか、不思議に思う向きが強かった。相手の動きの観察、呼吸などが考えられるが、クラシック由来のドラムのクレッシェンドや強弱のうねりも、合わせる場面への秒読みに一役買っていたのではなかろうか。

民謡もクラシックも自分のすべてをたたき込む

森山氏のドラムのシンバルにはヘリの部分にネジのようなものがいくつも付いている。シンバルに穴を開けて鋲(びょう)を打ち込んだもので、シズル・シンバルと呼ぶ。シンバルをスティックでたたくたびにそのネジのようなものが一斉にふわふわ揺れて、ジュージューとひずんだ派生音を出す。これがオーケストラのシンバルに近い劇的効果を上げる要因の一つと考えられる。ジャズの中でチャイコフスキーやマーラーの交響曲のクライマックスが随所に差し込まれる印象を受ける。交響曲規模の打音が鳴り渡り、ドラマチックなスイングが感動を呼ぶ。

――今後取り組みたいことは。

「山下洋輔と組んで演奏するのが一番いいに決まっている。彼は見事に叙情的な部分のないピアニスト。普通はバラードを入れたりして、ほろりとさせるようなピアノを弾くものだが、あの人にはそういうところが全くなかった。肘でピアノをたたく独特の奏法は、森山がアクセントをガンガンかけてくるので、普通の弾き方では対抗できず、思わずやってしまったとのことだ。2人でしかできない音楽はどうしても2人でやるしかない。山下とまだ何回か演奏する場面もあるだろうが、実現したら、抱いた喜びが全面的に出せるように心掛けたい」

「山下以外ならば、オーケストラと一緒に演奏したら楽しいと思う。50~60人編成のオーケストラでドラムをたたきたい。ありがたいことに来年、その機会がある。3部構成で、第1部は山下とオーケストラ、第2部は森山とオーケストラ、第3部は森山と山下とオーケストラというライブだ。7月くらいから練習を始める。最後の仕事になるかもしれない。僕は自由にたたいて感情が打ち勝つものを出したいので、きれいにアンサンブルでたくらんだものと、感情の打ち勝ったものが舞台上で一つの形になるよう計画したい」

森山氏の著作「森山威男 スイングの核心」(ヤマハミュージックメディア)で監督・構成を担当した東京大学名誉教授の松原隆一郎氏は「彼は自分の中にある民謡もクラシックも全部集めたらどうなるかをドラムにぶつけた。彼はきっと自分探しをしていたのだろう。それが一つのジャズに結実した」と評する。自己の持てるすべてをたたき込むからこそ、彼のドラムはジャズの領域も超え、全く新しい音楽芸術をその都度生み出す。クラシックや現代音楽、ヒップホップやロックなど、ジャズでないものを貪欲に取り込んで広がり、進化し続ける現代のジャズ。森山氏はその進化の一翼を担い続ける。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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