房総へ直行 サイクリスト列車「B.B.BASE」の魅力
JR東日本千葉支社は自転車を解体することなくそのまま車内に持ち込める列車「B.B.BASE(ビービーベース)」を2018年1月から運行している。通常、自転車を列車に持ち込む際は折り畳むか、車輪を外すなど解体し、専用の袋(輪行袋・輪行バッグ)に収めなければならない。しかし、B.B.BASEはロードバイクおよびクロスバイクなどを完成車のまま積載できる専用のラックを車内に備えており、分解の手間なく乗車できるところが大きな特徴だ。今回はそんな「B.B.BASE」を実際に利用したのでリポートをお届けしよう。
毎週末に房総方面に運行中
B.B.BASEはサイクリスト向けに全面的に改造した車両のみで編成されるサイクリスト専用列車として毎週末に運行されている。出発駅はすべてJR両国駅だが、停車駅は週末ごとに違う。いまのところ「内房コース(館山駅・和田浦駅)」、「外房コース(勝浦駅・安房鴨川駅)」「佐原コース(佐原駅)」「銚子コース(松尾駅・干潟駅・銚子駅)」の4ルートが設定され、朝夕で1日1往復する。
B.B.BASEを利用するには乗車券ではなく、事前に旅行商品を購入する必要がある。つまり「ツアー」の一種だ。往復乗車券だけの日帰りプランのほか、1泊2食付きの宿泊プランや片道乗車券のみのプランも選べる。
旅行商品の購入はインターネットの専用サイトや電話、首都圏の主な駅にあるびゅうプラザで可能だ。筆者が予約したのは「B.B.BASEで行く!BOSO RIDE 日帰りプラン 外房コース 往復B.B.BASE利用」というプラン。料金は両国駅~勝浦駅の往復で大人1人6700円である。
利用した外房コースの列車は午前7時39分に両国駅を出発する。筆者は横浜市に住んでいるので自転車を車に積んでJR両国駅まで行った。車は駅近くのコインパーキングに駐車したが、料金は1日2200円だった。
ロードバイクであれば房総半島を一日走り回った後でも20キロメートルぐらいの距離なら自走できると思うが、それ以上の距離になると夜ということもあってさすがに厳しい。都内なら用賀あたりまでがギリギリのところではないだろうか。両国駅まで輪行することもできるが、これは本末転倒ともいえる選択肢である。
高速道路代や駐車場代、ガソリン代のコストも含めると「B.B.BASE」は決してリーズナブルな交通手段ではない。車種にもよるが自転車を車に積んで直接現地に行くのと同じか、ちょっと高くつくぐらいだろう。もちろん車に何人か同乗するようなら車のほうがコストはかからない。
B.B.BASEが発着するのは両国駅の3番線。普段は使用されることのない「幻の3番ホーム」である。このホームへはJR両国駅西口の左手にある通路をたどっていくと改札口を通らずにアプローチできる。B.B.BASEにはサイクリングの知識にもたけた案内人が添乗していて、初めての利用でも迷うことなくスムーズに乗車することができた。
案内人の方いわく「帰りの列車に乗り遅れるお客様が多いので注意してください」とのこと。走り始めると楽しくてつい欲張ってしまい、復路の列車に間に合わなくなる人が続出しているのだという。運行ダイヤは厳守されるため、時間になれば容赦なく発車する。もし列車に乗り遅れてしまった場合は輪行袋を手配し、外房線に乗るなどして帰ってくることになるという。
B.B.BASEは全席が指定席。自転車は自分が座る座席の背面に備えられたラックに収める。自転車の固定方法は非常に簡単で、誰でも直感的に行えるものだ。まだ改装されて間もない列車ということもあって車内は非常にクリーンで居心地が良い。
外房コースの列車は7時39分に両国駅を発車。途中の津田沼駅と千葉駅でも乗客を乗せ、9時50分に勝浦駅、10時26分に安房鴨川駅へとそれぞれ到着する。いずれにしても2時間以上乗車することになるが、座席はリクラニングこそないものの非常にゆったりとしたスペースが確保されており、到着までとても快適に過ごすことができる。ちなみに帰りの列車は安房鴨川駅発が17時または勝浦駅発17時41分発で両国駅着が19時38分というスケジュールだ。
フリースペースでは観光案内も
全6両のうち4号車だけは自転車を積載しないフリースペース。観光情報の発信や車内販売が行われている。車内販売はちょっとした飲み物と菓子ぐらいしかないので、車内でしっかりとした朝食を食べたい人は事前にコンビニなどで調達しておくのをおすすめする。
今回の旅では勝浦駅で下車したが、ホーム出口でCCA千葉県サイクリング協会 南部支部によるサイクリングツアーが行われていたので参加することにした。
外房コースの列車が来るときは勝浦駅のホーム出口で参加者を募集しているとのことで、何と無料で参加が可能だ。地元の道を知り尽くした新井さんと吉清さんに先導されておよそ60キロメートルを走ったが、参加者の脚力を考慮しつつ、帰りの列車の時間までにピタリと戻ってこられる素晴らしいルートを案内してくれた。通常こういったサイクリングツアーに参加すると5000~7000円はかかる。自分がどれだけ走れるかまだ把握しきれていないビギナーの方には絶対におすすめである。
B.B.BASEは房総半島をツーリングするための便利な交通手段というより、この列車に乗ること自体をエンタテインメントとして楽しむためのものだろう。何せ列車に乗っているのは自転車という共通の趣味を愛好する人たちだけなのである。車内では愛用している自転車やパーツ、ウエアなどをネタに乗客同士で自然と会話が弾む。学生時代の遠足気分である。列車に同乗しているスタッフの接客もとても気持ちの良いもので、個人的にはぜひもう一度利用したいと思った。
ひとつ心配なのはゴールデンウイーク初日だったにもかかわらず空席が目立ったことだ。サイクリング専用列車という他にはない交通機関の魅力を十分に伝えきれていないのだとしたら実にもったないことである。今後は団体客の誘致や、フリースペースのホスピタリティーをさらに充実させるなどぜひ頑張ってもらいたい。
(ライター 佐藤旅宇)
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