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働くシニアの厚生年金、収入多いと支給停止に 就労意欲そぐとの批判、制度見直し論も

2018/5/19

写真はイメージ=PIXTA

 公的年金制度の改正に向けた議論が社会保障審議会(厚労相の諮問機関)で始まりました。論点のひとつに厚生年金に加入して働きながらもらう「在職老齢年金」の見直しがあります。収入に応じて年金を減額して支給するので、シニア層の働く意欲をそぐとの批判があります。

 会社員らが入る厚生年金はかつては年齢に加えて退職が条件となっており在職中は年金を支給しませんでした。ところが高齢になり賃金が減って生活できない人が増えたため、在職中も一定額の年金を支給する制度ができました。これが在職老齢年金です。

 当初は対象が65歳以上でした。その後60代前半にも拡大し、支給割合も含めて制度改正を繰り返してきました。賃金水準にかかわらず、一律で年金を2割カットしていた時期もあります。現在は、給与と年金の合計額が一定の基準を上回ると、厚生年金の一部または全部を支給停止する内容となっています。基礎年金部分については減額はありません。

 在職老齢年金は働いて保険料を納める人が対象です。厚生年金に加入せずに働く限り、年金が減ることはありません。ただ2016年以降、労働時間や賃金など、厚生年金の加入条件が緩和され、シニア層が厚生年金に入って働く機会が増えています。

 支給停止の基準となる金額は、65歳未満と65歳以上で異なります。月収(給与・賞与合計の月額換算)と、本来受け取れる年金月額を合計し、それぞれ28万円、46万円を上回ると、一定の算式によって年金が減額されます。

 基準額は支給停止調整開始額などと呼ばれ、年度ごとに改定します(18年度は変更なし)。支給停止になった年金は、働くのをやめた後にもらえると勘違いしている人もいるようですが、戻ってこないので要注意です。

■65歳未満の対象者98万人

 65歳未満の対象になるのは「特別支給の老齢厚生年金」を受ける人たちです。例えば年金が月10万円の場合、月収18万円までは全額もらえますが、それを超えると減額が始まり、38万円超で年金はゼロになります。支給停止の対象者は約98万人、合計の停止額は約7000億円に上ります(厚生労働省、14年度)。

 65歳以上に関しては基準額が高いので、支給停止は企業の役員のように収入が多い人に限られてきました。対象者は約28万人、支給停止額は約3000億円でした。

 現在、厚生年金の受給開始年齢は65歳に向けて段階的に引き上げられています。引き上げが完了(男性25年、女性30年)すれば、65歳未満の在職老齢年金の対象者はいなくなります。一方で65歳以上に関しては「働くシニアの増加に伴って対象者が増える」と社会保険労務士の森本幸人さんは指摘します。

 在職老齢年金は「働いても年金で不利にならないように」「一定の収入を得ている高齢者は年金受給を我慢すべきだ」という2つの要請の間で存続してきました。現在はシニアの就労意欲をそぐという見方から前者が優勢のようです。

 政府は経済活力を維持するために高齢者の就労を促す考えで、在職老齢年金の見直しも社保審で議論します。年金財政を5年に1度点検する財政検証も19年に予定しており、その結果を踏まえて改正を検討していく見通しです。

[日本経済新聞朝刊2018年5月12日付]

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