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女性活躍推進はまやかしか 欠落する人権と統治の視点

セクハラ対策は企業経営への試金石になる

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NIKKEI STYLE

財務省元次官のセクハラ問題が尾を引いている。政財界リーダーによる発言が物議をかもす中で浮かび上がってきたのは、セクハラが人権問題であり、ガバナンス(統治)上の問題であるという視点が欠落していることだ。世を挙げて旗振りをしてきたはずの「女性活躍推進」はまやかしだったのだろうか。

◇  ◇  ◇

連休中の5月4日、NHK「ニュースウオッチ9ホリデー」のセクハラ特集で今井純子解説委員があるエピソードを紹介した。

「ある企業の決算発表で、女性記者がセクハラ対策を尋ねたところ、その場にいた男性記者やアナリストから笑いがもれた」

「重要な」決算発表という場で、「いま一時的に盛り上がっている」セクハラ問題などを持ち出すとは笑ってしまう、経営の本質には関係ないと考える人たちが少なからずいるということだ。セクハラ対策はガバナンスの問題であることがいかに軽視されているかの証左だろう。

多様な人材の確保と業績向上に直結するセクハラ対策

あらゆる組織において、セクハラ対策はガバナンスのあり方、そして人権尊重の姿勢を測る試金石となる。女性活躍推進の旗振りがなされる中、その取り組みが本物か、まやかしかは、セクハラの対応に端的に表れる。理由は大きく2つある。

まず、企業はセクハラの対応を誤れば優秀な人材を失いかねない。報道機関でも過去に、女性記者がセクハラを訴え出たことで報道現場から外された、退職を余儀なくされたという事例はある。「女性記者が辞めても、代わりとなる男性記者はいくらでもいる」という発想があるかもしれない。確かにかつての報道現場は男性ばかりだった。しかし今、社会構造がかつての「男性が稼ぎ主」の時代から大きく変わり、ライフスタイルが多様化する中、伝える側にもまた多様性が求められるようになっている。

報道現場で働く女性は徐々に増え、今では約2割に及ぶ。女性が増えるにつれて、報道の視点は確実に広がりを見せている。女性が安心して働くことができる職場環境づくりは、報道機関にとって生命線といっていい。かつてのように男性ばかりの現場では、多様な読者や視聴者の「知りたいこと」にもはや応えられないからだ。

これは、マスメディアの世界に限る話ではない。職場で性別や国籍に関係なく多様な人が働くことが、社会の変化に応える商品やサービスを生み出すことにつながるという事情は、どの職場にも共通する。優秀な人材、多様な人材の確保のためにも、適切なセクハラ対策は企業にとって不可欠といえる。

第二に、「精神的に安心できる職場」はトラブルのリスクを抑え、業績向上にもつながる。労働政策研究・研修機構の2016年調査によると、職場に「お互いに助け合う風土」があり「意見が言いやすい風通しのよい環境」であると、セクハラの発生率は低くなる。さらに職場の長が「業務分担等について良くマネジメント」していることも歯止めになる。

精神的に安心できる職場は、リスクを抑えるにとどまらず、業績向上にも直結する。グーグルの社内調査によると、上司や同僚に何でも相談できる、何を言っても受けとめてもらえるという「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティー)」のある部門は、そうでない職場に比べて明らかに「パフォーマンス(業績)が高い」というデータが出ている。

セクハラ対策が多様な人材の確保と生産性向上におおいに関連することからも、重要なガバナンスの問題といえるだろう。こう考えると、冒頭の決算発表時の女性記者の質問が、いかに的を射たものであるかが分かる。

企業のガバナンスに対する社会の目は、厳しさを増している。環境・社会・企業統治を重視する「ESG投資」への関心の高まりも、その表れのひとつである。環境、社会、ガバナンスの3分野の中でも、特にガバナンスにおいて日本企業は欧米企業に比べて弱いと指摘されてきた。女性社員の活躍に大きくかかわるセクハラ問題への対応は、企業のガバナンスを測る上でのひとつの指標となるだろう。セクハラ被害を黙認する企業、被害者が二次被害を受けても対応しない企業は、そうした情報が明るみに出るや投資家からの評価が下がる可能性がある。

差別意識を温存しながら「女性活躍」をうたうのはもはや限界

では、セクハラ防止策として何が有効なのか。麻生太郎財務相は「担当記者を男性に代えればいい」と発言したと報じられている。セクハラを未然に防ぐため、仕事のためとはいえ男女が一対一で相対することを避けることが解決の糸口となるのか。否、男性オンリー職場に時計の針を巻き戻すだけである。現に今、「職場の外で会うのは避けたい」と女性記者が取材を断られたり、営業ウーマンが仕事をしにくくなったり、ということが起きており、女性社員の間からは不満の声が上がる。女性が現場の第一線から締め出されてしまうことにつながりかねないからだ。

男性陣からは、「女性とコミュニケーションを取りにくくなった」「ルールをしっかり定めてほしい」という声も上がる。こんな行動はNG、こうしたセリフはご法度と具体的な基準を示してほしいというのだ。

実際に、現行の男女雇用機会均等法には、セクハラ行為の定義はない。刑事罰に相当するような強制わいせつでない限り、日常的などのような行為をセクハラとするかの定めがないため、違法行為の判断が難しい。そこで今、改めてセクハラのルールづくりが求められている。野田聖子女性活躍担当相は、罰則を含む法整備など再発防止策を今国会中にまとめるとしている。

具体的な禁止規定を設けることは重要な防止策となるが、個々人の感じ方も状況も異なるため、結局はそれぞれが考えて行動しなくてはならない。

では、根本的な解決策は何か。遠い道のりではあるものの、セクハラが人権侵害に当たることを、社会の共通認識として浸透させていくことこそ大切ではないか。セクハラはパワーと結びついてのもの。パワーを持つ人間が、弱い立場にあるものに対して性的嫌がらせをすることは、相手を一人の人間として尊重していないばかりか、人格を否定する、そして人権を侵害することにつながる。こうした考え方を、学校教育や職場の研修で浸透させていくしかない。

昨今叫ばれる女性活躍推進。国の成長のため、企業の成長のための経営戦略であるというのは、ひとつの側面でしかない。もうひとつの側面は「人権尊重」である。性別や国籍といった属性、結婚や子どもの有無といったライフスタイルの違いにより、仕事の上で差別を受けることがあってはならない。これは基本的人権として守られるべきであるという考え方だ。

欧州では、こうした考え方が少なくともリーダー層ではすでに浸透している。欧州連合(EU)で日本の経団連にあたるビジネスヨーロッパの男性事務局長に話を聞いたときのこと。なぜこれほどダイバーシティー推進に力を入れるのかと尋ねたところ「経済成長のために多様な人材活用は不可欠」という言葉に続けて「基本的人権の問題だから当然のこと」と言い切ったことが印象に残っている。欧州の財界リーダーからは、いずれも同様の答えが返ってきた。彼我の差を感じた瞬間だ。

日本においては「人権問題でもある」と口にしようものなら、女性の権利拡大を声高に主張する活動家のようにとられかねない。しかし、今回の一連のセクハラ報道と政財界リーダーの発言に改めて思う。女性活躍推進は人権問題でもある。

政府の掲げる「女性活躍推進」の看板が、セクハラ報道を受けて一気に色あせて見えたのは、これまで企業の成長や国の経済成長に寄与するという視点ばかりが強調され、「人権尊重」の視点が置き去りにされていたからではないか。女性差別的な意識を秘めつつ、上辺だけで女性活躍を説くのはもはや限界であることを、今回のセクハラ騒動は突き付けている。女性活躍推進は人権の尊重でもある、という命題を社会全体で共有しない限り、セクハラ問題はなくならないであろう。

(淑徳大学教授・ジャーナリスト 野村浩子)

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