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縄文人も食べていた納豆 煮豆とワラの幸運な出合い30の発明からよむ日本史 (1)納豆=縄文時代

戦国時代に茶道を大成した千利休は、天正18(1590)年から翌年にかけての茶会記を記した『利休百会記』の中で、天正18年に7回、茶事で「納豆汁」を出したという記録があります。

一方、通常の納豆と違って粘りのないのが浜納豆です。栄養価が高く保存性にすぐれていることもあって、戦国時代には兵糧として重宝されました。徳川家康は浜納豆がお気に入りで、戦場に持参したと伝えられています。朝鮮出兵の際、加藤清正軍が空になった味噌袋に煮豆を入れて運んでいたところ、馬の背で温められた煮豆が納豆になり、兵士が食べたという逸話もあります。

江戸時代には朝食の定番に

庶民の間で納豆が幅広く食べられるようになったのは、江戸時代になってからのことです。醤油(しょうゆ)が安く手に入るようになったことが、納豆の普及に一役買ったともいわれています。

納豆は、もともと現在のように一年中食べられるものではなく、おもに冬の食べ物でした。江戸時代中期以降になると、大都市では一年中食べられるようになりました。それだけ納豆は人気があったということでしょう。

江戸詰めの紀州藩医が記した『江戸自慢』という見聞録には、「からすの鳴かぬ日はあれど、納豆売りの来ぬ日はなし。土地の人の好物なる故と思はる」との記述があります。

江戸の朝は、納豆売りの「なっと、なっと、なっと?」という、威勢のいいかけ声とともにはじまりました。ざるにワラを敷いてその上に大豆をのせ、室(むろ)に入れてひと晩発酵させた「ざる納豆」が一般的で、納豆売りはこのざるを天秤(てんびん)棒で担いで量り売りをしていたそうです。

納豆売りは川柳などにもしばしば登場しています。

納豆と蜆(しじみ)に朝寝おこされる

納豆売りから買った納豆と、炊きたてのご飯と味噌汁が、庶民の定番の朝食でした。つまり江戸時代には、納豆が庶民のものになったと同時にご飯、納豆、味噌汁という現在まで続く朝食の定番ができあがりました。

ちなみに、関西では納豆嫌いの人が多いといわれますが、実際には元禄時代まで納豆売りは京都や大坂にもいました。人気がなかったのか江戸時代後半には姿を消しましたが、納豆そのものは自家製で食べていたようです。

駅前広場から知名度を上げた水戸納豆

納豆といえば、水戸のイメージが強いかと思いますが、水戸が納豆で知られるようになったのは、じつは明治時代になってからのことです。

納豆売り 明治時代の納豆売り。このころも「なっ と~」というかけ声だったことがわかる。

明治22(1889)年、茨城県水戸市と栃木県小山市をつなぐ水戸鉄道(現・JR水戸線)が開通し、たくさんの旅行客が水戸駅前を賑(にぎ)わすようになりました。

同年に創業した水戸天狗納豆は、水戸の駅前広場で旅行客への土産物として納豆を売り出します。当時の納豆の売り方は、行商人が一度にたくさんの納豆を担いで、得意先を1軒1軒回って買ってもらうという大変な重労働でした。

しかし、人が集まる駅前広場なら、移動せずに販売することができます。このアイデアは見事に的中し、水戸の土産物として納豆は高い人気を得ました。土産物として持ち帰られた納豆は、それぞれの地域で食卓にのぼり、納豆といえば水戸というイメージを定着させていったのです。

水戸は小粒大豆の産地でした。小粒大豆は早生(わせ)で、3カ月程度で完熟し、収穫が可能です。もともと大粒の大豆から作る納豆のほうが人気で、小粒のものはあまり好まれていませんでした。

しかし、納豆にすると、その口当たりが独特の風味を醸し出したのです。こうして主流となった小粒納豆は、全国的に評判になりました。

現在、さまざまな種類の納豆を手軽に入手できます。粒の種類だけでも、大粒・中粒・小粒・ひきわりがあり、納豆に使われる大豆、納豆を包んでいる容器によって風味が変わります。自分の好みの納豆を見つけて、長く付き合いたいものです。

【納豆のこぼれ話】
お坊さんの貴重なたんぱく源だった!
納豆という名前は、お寺の納所、つまりお寺の台所で作られたことに由来するという説があります。
仏教の戒律によって、肉食が禁じられ、動物性たんぱくをとることができなかったお坊さんたちにとって、納豆は貴重なたんぱく源でした。
また、煮豆を神棚にお供えしたところ、神棚を飾るしめ縄についていた納豆菌によって、煮豆が納豆に変わったという言い伝えがあり、「神に納めた豆」という意味から納豆と呼ばれるようになったという説もあります。
豆を腐らせたと書く「豆腐」と箱に納められた豆と書く「納豆」は、名前と言葉の意味が入れ替わっているといわれますが、これは俗説です。
池内 了 監修『30の発明からよむ日本史』(日本経済新聞出版社、2018年)から

30の発明からよむ日本史 (日経ビジネス人文庫)

監修 : 池内 了 編著 : 造事務所
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 864円 (税込み)

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