――1965年に渡仏してからも映画はよく見ていたのですか。

「渡仏してからパリでデザイナーとして独立するまでの5年間は、洋画よりも、むしろ邦画をよく見ていました。フランス語が不自由なので、フランス映画のセリフがよく聞き取れなかったためです。黒沢明監督や小津安二郎監督の作品はパリでも人気でよく見ましたが、個人的な好みで言えば、溝口健二監督や成瀬巳喜男監督の世界の方により魅力を感じます。特に溝口監督が幽玄の美を描いた『雨月物語』には大きな影響を受けました。もともと姫路城の城下町で育ちましたし、実家が花街の待合だったので僕にはとてもなじむ世界でした」

――監督として映画『夢・夢のあと』を制作し、1981年に公開しましたね。

1981年に公開した映画『夢・夢のあと』のロケ撮影現場で(左端が高田賢三さん)

「あの映画は、実は『雨月物語』の世界観をヒントにして制作したんですよ。敏腕映画プロデューサーの藤井浩明さんが仕掛けた作品で、熱心に僕を口説き続け、熱い情熱で映画制作に駆り立ててくれました。興行的には成功せずに迷惑をかけてしまいますが、藤井さんはその後も懲りずに次の映画制作を持ちかけて来た。その原作が、同性愛を描いた三島由紀夫の小説『禁色』。結局、準備に時間がかかって実現しませんでしたが、先日、自宅の書庫を整理していたら、なんと、その未完に終わった脚本が出てきたんですよ。南仏を舞台にしたバージョンと、日本を舞台にしたバージョンの2つありました。まさに『幻の映画』の脚本です」

――映画と服作りには何か共通点はありますか。

映画『夢・夢のあと』のパンフレット

「ファッションショーでは世界観やテーマを切り口に服作りの思考を深め、作品を生み出しますから、どちらにも根本では共通のものがあると思います。僕は少年時代から数多くの映画を見続けてきましたし、映画だけでなく、宝塚歌劇や歌舞伎、浄瑠璃、オペラも見てきた。これらすべてが僕の美意識を作り、服作りの土台を支えてくれたような気がします」

坂本龍一『ラストエンペラー』、本木雅弘『おくりびと』…

――最近の映画では何を見ましたか。

「あまり多くの作品は見ていませんが、ルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』は強く印象に残っています。北イタリアの避暑地を舞台に2人の青年の愛を描いた作品で、映像も会話もとてもきれいで美しかった。役者もいい演技をしていました」

――日本人の俳優だと誰がいいですか。

「俳優というよりは音楽家として有名ですが、坂本龍一さんが好きですね。ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』の甘粕正彦役がとても良かった。知的で端正な顔立ちだし、少し陰があるところも魅力的です。この3月にパリの中華レストランで一緒に食事して、ゆっくり話す機会がありました。改めてお会いしても、やはり魅力的な男性だと感じます。もし彼のような才能と一緒に仕事できたら、どんなにうれしいことかと思います」

「それから本木雅弘さんもとても良い俳優ですね。アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『おくりびと』での納棺師の役が素晴らしかった。あの居ずまいの正しさ、すがすがしさ……。見ていてとても気持ちがいい。日本にもすごい俳優が出てきたなと期待が高まります。とにかく映画は人類にとっての大切な財産。これからもずっと良い映画を楽しんでゆきたいと思います」

夢の回想録 高田賢三自伝

著者 : 高田 賢三
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 2,052円 (税込み)

エンタメ!連載記事一覧