パリのファッション界で活躍を続けてきたデザイナーの高田賢三さん。2017年12月に刊行した『夢の回想録 高田賢三自伝』(日本経済新聞出版社)では故郷の姫路市や上京後の東京で映画館に通い詰めた懐かしい記憶や映画ロケにエキストラ出演した思い出、初めてメガホンを執った自作映画『夢・夢のあと』の体験談などが興味深くつづられている。
「服作りを映画が支えた」と語るほどの映画好きだった高田さんに、自伝では触れられていない映画にまつわるエピソードや秘話、理想の男性像・女性像などについてインタビューした。
姉の影響で恋愛映画に夢中、美意識の土台に
――少年時代から相当な映画好きだったようですね。
「姫路市内に映画館がいくつかあって、いつも入り浸っていました。少女趣味だと笑われそうですが、2人の姉と年齢が近かったせいか、女性が見るようなラブストーリーが大好きで、洋画だと『若草物語』『子鹿物語』『風と共に去りぬ』、邦画だと『野菊の如き君なりき』などに夢中になっていました。理想の男性像として初めて意識したのは映画『ロミオとジュリエット』でロミオを演じた俳優ローレンス・ハーヴェイ。ハンサムだけどやや暗い陰があるところに引かれ、英語でファンレターを2度も送ったことがあります」
――ファッションデザイナーとしての美意識にも映画から影響を受けましたか。
「大いに受けました。白馬に乗って現れる王子様に憧れるという美意識はいつも心のなかにあります。後にパリでデザイナーとして活躍するようになってから、実際のファッションショーに本物の白馬を登場させたこともあるほどです。ただ、理想の男性像は時代ごとに変わるもの。ローレンス・ハーヴェイの後はアラン・ドロンに熱を上げました。『お嬢さん、お手やわらかに!』あたりから気になり始めて、『太陽がいっぱい』『若者のすべて』ですっかりとりこになってしまった」
雑誌のA・ドロン取材に便乗、モロッコの会食で友人に
「東京で働き始めたころ、雑誌のインタビューにこっそり便乗し、来日したアラン・ドロンに会いに行ったこともあります。すごく緊張して、黙って顔を見ているだけでしたが、『世の中にこんなにきれいな顔をした男性がいるんだ』としきりに感心した覚えがあります」