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子供140人生贄 550年前のペルーで何があった?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/5/14

プリエト氏がラス・リャマスでの研究について科学者仲間や地元の人々に話をするとき、最初の質問はだいたいこれだという。

「この地で起きたこととその規模を知ると、人々は必ず『なぜ?』と言うのです」

研究チームは、発掘の際に見つかった泥の層が手がかりになるかもしれないと考えている。泥の層は、激しい雨が降り、洪水が起きたことによりできたものだろう。ペルーの海岸地域は基本的に乾燥しているが、おそらく、生贄の儀式が行われた当時、この地域はエルニーニョによる異常気象に見舞われていたのだ。

エルニーニョの特徴である海水温の上昇により、漁師たちは魚が獲れなくなっていただろう。王国中に張りめぐらされていた農業用の運河も、海岸地域の洪水により破壊されてしまっただろう。

チムー王国は、ラス・リャマスの集団生贄の儀式からわずか数十年後にインカ帝国に屈服した。

米ジョージ・メイソン大学の人類学教授ハーゲン・クラウス氏は、ウアンチャコの北のランバイエケ谷にある10~12世紀のセロ・セリージョス遺跡での発掘調査で、子供を生贄とする儀式が行われていた証拠を発見している。この地域で最古のものだ。クラウス氏はラス・リャマスの発掘プロジェクトには関与していないが、ペルー北部の海岸地域の社会が、成人を生贄としてささげてもエルニーニョにより繰り返し起こる混乱が終息しないのを見て、子供を生贄にすることを考えるようになったのかもしれないと言う。

「人は、自分が最も価値があると思うものを生贄としてささげます。成人の生贄をささげても雨がやまなかったので、新しい種類の生贄をささげなければならないと考えたのではないでしょうか」

クラウス氏は、「タイムマシンでも使わないかぎり、答えを知ることは不可能です」と言い、ラス・リャマスでの発見は、アンデスにおける儀式的な暴力と人間を生贄とする儀式の多様性に関する知識を増やしてくれる点で重要だと付け加える。

「儀式的な殺人は契約であり、超自然的な神から何かを得るために行われるという考え方があります。けれども実際には、超自然的な力をもつ存在と交渉し、それを操ろうとする、極めて複雑な試みなのです」

■さまざまな民族や地域から連れてこられた

ラス・リャマスの生贄を調べている科学者チームは、現在、生贄の生活史(彼らがどんな人で、どこから来たかなど)を解明するという困難な仕事に取り組んでいる。

子供の骨格から性別を決定するのは難しいが、予備的なDNA分析から、生贄には少年も少女もいたことが示唆されている。また、同位体分析の結果は、すべての生贄がこの地域から出されたわけではなく、おそらくチムー王国中のさまざまな民族や地域から連れてこられたことを示している。

ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーである考古学者のガブリエル・プリエト氏(左から2人目)は、今から500年以上前に生贄の儀式が行われたペルーの北部沿岸地域の発掘調査を進めている。彼は、地元の学生たちを指導して、ウアンチャコの歴史を解き明かす次世代の科学者に育て上げようとしている

遺体のなかには、当時、高地で行われていた人工頭蓋変形の痕跡があるものもあり、チムー王国が支配していた遠隔地の子供も生贄として沿岸部に連れてこられたことを示している。

ラス・リャマスでの発見後、研究チームはウアンチャコでも子供とリャマが生贄としてささげられた同時代の集団生贄の跡を発見し、ナショナル ジオグラフィック協会から支援を受けて調査を進めている。

「ラス・リャマスは世界に例を見ない遺跡です。この地域からの同様の遺跡が今後の研究でどれだけ明るみにでるのか、興味深く思うでしょう」とプリエト氏は言う。

「この遺跡は氷山の一角かもしれないのです」

(文 Kristin Romey、写真 Gabriel Prieto、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年5月1日付]

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