ブリーフ・長風呂…不妊を招きかねない男の習慣男性不妊症の実態と治療法(前編)

日経Gooday

「精子の頭の部分にあるDNAが損傷しているために、受精卵に細胞分裂を促す力がないものがあります。専門的にはフラグメンテーション(断片化)といいます。おおむね精液検査の結果に比例するので、数や運動率が十分な人は断片化も少ない場合が多いのですが、中には検査結果が良くても断片化が多く見られる人がいます」(小堀さん)

これはいわば、精子の「質」の低下。「老化」と言い換えてもよいだろう。精液検査では主に数や運動率しか見ないが、基準を満たしているのに原因不明でなかなか妊娠しない人の中には、実は精子が老化している可能性もあるかもしれない。

当然だが、年齢を重ねれば重ねるほど精子も老化するため、こうした質の低下は加齢によって増えると考えられる(ただし、中には30代から受精卵に細胞分裂を促す力が弱い精子が見られることもあるという)。男性は精子さえあれば何歳でも子どもができるわけではなく、加齢とともに子どもができにくくなるのは男性も女性も同じだ。特に子どもを望むなら、タイムリミットは意外と早いと心得ておくべきだ。

環境やライフスタイルが精子を老化させる

こうした精子の老化を進める原因は何か? 小堀さんは、PM2.5やダイオキシンなど環境の影響と、ライフスタイルの変化が影響している可能性があると考えている。環境中の化学物質や、体脂肪率、栄養やストレスといったライフスタイルの要因がホルモンにも影響を及ぼすということだ。

「例えば150年ぐらい前、大多数の人は暗くなったら午後8時ごろには寝るという生活をしていました。ここ数十年でインターネットが登場して情報のスピードが加速し、夜になっても働いたり活動したり、夜遅くに食べたり飲んだりと、ライフスタイルが様変わりしています。肥満や糖尿病など昔は少なかった病気も増えてきました。ここ数十年で急激に起こった環境とライフスタイルの変化が、強く体に影響を及ぼしているのではないでしょうか」(小堀さん)

食べた物が精子に影響する可能性を示す報告もある。写真はイメージ=(c) bowie15-123RF

肥満と精子の関係を示す研究には、例えばこんなものがある。肥満度を示すBMI(Body Mass Index)という指標があるが、平均BMI33のグループが30までダイエットした結果、精子DNAのダメージ度合いを示すDFI(DNA Fragmentation Index: DNA断片化指数[注2])の平均値が有意に低下したというものだ[注3]。この研究では、体重が減った人ほどDFIが低下し、また精子の形態もダイエット後に改善されたという。「これに反論する論文もあるが、肥満が精子の状態に影響している可能性を示す報告といえるだろう」(小堀さん)。

小堀さんは、「Testicular Dysgenesis Syndrome(TDS、精巣形成不全症候群)」という一連の病気が急速に増えていることも、環境やライフスタイルの変化と関係していると指摘する。

TDSとは、精巣の機能が悪化し、男性ホルモンが低下することによって引き起こされる一連の症候群のことで、男性不妊症、精巣がん、停留精巣(精巣が陰のうの中に下りてこない状態)、尿道下裂(尿の出口が陰茎の先より根元側にある)などの病気が含まれる。これらは胎児期の男性ホルモンが深く関わっていて、環境の変化やライフスタイルが胎児期の精巣細胞に作用する結果、精巣の力が弱くなって、生まれつきこうした病気になる可能性が高くなると考えられる。

ライフスタイルの変化が精子の中にある遺伝子を変化させ、親から子へ、子から孫へと伝わっている可能性が考えられるが、このようなエピジェネティックな遺伝現象[注4]は、数世代前から続く大きな流れの中で考えなければならない話だという。

「個人的には、現代に生きている人類がこの大きな変化の流れを止めることは不可能だと思っています。今後も精子は減っていくでしょう」(小堀さん)

ストレスや老化のサインが表れる? スマホで精子チェック

精子の減少や老化などの変化は不妊症だけにとどまらず、全身の老化や子孫の遺伝子にまで関係する根本的な問題のようだ。老化は、活性酸素による酸化ストレスに代表されるような老化のストレスが影響して進むが、「生殖器である精巣が最初に影響を受け、精子の質が悪くなっているのかもしれません」と小堀さんは言う。ちなみに、男性不妊症の人は寿命が短い傾向があることも明らかになっているという。それだけ早めに老化ストレスを受けている可能性があるということだ。

[注2]DNAがどのくらい不安定な状態であるかを示す指数で、数値が高いほど精子DNAがダメージを受けており、妊娠しづらい。

[注3]Mir J ,et al. Andrologia. 2018

[注4]エピジェネティック:DNA塩基配列の変化を伴わず、遺伝子の発現を活性化したり不活性化したりする後付けの修飾のこと(塩基配列に変化が生じる「遺伝子突然変異」とは異なる)。エピジェネティックな遺伝情報の変化は次世代の細胞に伝えられ、調節が破綻すると、生まれてくる子どもの様々な異常や疾患につながることから、がん治療や再生医療などにおいても重要なテーマになってきている。

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