時代に追いやられ天空に登った幻のサル 古文献で判明
中国の山岳地帯の深い森にすむシシバナザル。美しい毛並み、鮮やかな青色の顔に小さな鼻をもつキンシコウも、このシシバナザルの一種で、天空の秘境に暮らすサルとして紹介されることもある。先ごろ、霊長類学者たちは、中国の古代文献をひもとくなかで、かつては中国の広い範囲に分布していたシシバナザルが、時代とともに山奥へと徐々に追いやられていった様子が記録されていることを見つけた。
シシバナサルに関する最古の記録は、紀元前3世紀に遡る。「爾雅(じが)」という中国の辞典に「おかしな鼻に長い尾の動物」と書かれている。この爾雅をはじめとする古い文献から、かつては中国の東部、中央部、南部の低地と高地に広く分布していたことがわかるが、その分布域は長い年月をかけて少しずつ縮小してきた。特に、西暦1700年前後に中国で人口の過密化が進むと、文献のなかのシシバナサルも、中国のごく限られた地域でしか見られなくなっていった。
「時の経過とともに、分布域がどんどん狭まっています。中国東部、南東部、中央部では完全に姿を消してしまいました」と、米イリノイ大学の霊長類学者で論文共著者のポール・ガーバー氏は言う。
あと50年で絶滅してしまう?
現在、中国にいる4種のシシバナザルは、すべて西部と南西部の人里離れた山地に生息している。しかも、ここでさえ個体群の規模は小さく、脅威が迫っている。キシュウシシバナザルは、野生に800匹しか生存していない。
人口増加、農地開発、乱獲、森林伐採、これらすべてが、シシバナザルの分布域を脅かしてきた要因である。中国の人口が過去60年間で2倍に増えると、サルの生息地は細分化され、問題はますます深刻化した。何らかの措置がとられなければ、一部の種はあと50年以内に絶滅してしまう恐れがある。
「人間以外の霊長類は、世界の約90カ国に生息しています。しかし、これらの国の多くは十分な資金を持たず、専門家や科学者もほとんどいません」とガーバー氏は危惧する。「その点中国は、何か意味のある行動を起こすことができる立場にあり、サルたちに対する影響を軽減させてやることができます」
論文の筆頭著者で中国科学院の霊長類学者、趙序茅氏は、サルの保護に最も有効なのは国立の保護区を設けることだと指摘する。
国や地方自治体が運営するシシバナザルの保護区は、すでに中国に38カ所以上あり、現在生存するほぼ全てのシシバナザルがこれらの保護区内にすんでいる。ミャンマーとの国境に生息し、深刻な危機にあるウンナンシシバナザルも、間もなく設立される怒江大峡谷国立公園で保護される予定だ。保護区の基本計画は2016年に承認された。
(文 Sophie Yeo、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年4月20日付]
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