ニンジンと鶏肉入りのアレパ

大きさはちょうどハンバーガーくらい。中にニンジンと鶏肉が入っているという。彼によると「本当のアレパはトウモロコシで作るんだけど、これは小麦粉で表面だけトウモロコシの粒をまぶしているんだ」と言っていた。

日本企業の駐在員は立ち入り禁止という若干治安の悪いエリアだったので、その場では食べずに宿に持ち帰った。中身を見てみると、ニンジンの千切りにゆでて裂いた鶏肉のほかに、ソテーしたバナナが入っている。味つけはシンプルで塩・こしょう、ちょっぴりのオイルのみ。

食べてみると、パンはちょうどイングリッシュマフィンのようで表面の挽いたトウモロコシの粒が香ばしくてとてもおいしい。バナナは火を入れると酸味が出るので、ちょうどハンバーガーのピクルスのよう。いい仕事をしてくれている。

中にはソテーしたバナナ 中南米ではよくバナナを焼いて食べる

ペルーは最近では「美食の国」として注目を浴びているのだけれど、実はパンだけはイケてない。パサパサ、モサモサとしていてあまりおいしくない。

このアレパは、パン職人でもない普通のベネズエラ人たちが家族で身を寄せあっている小さな家の小さなキッチンでつくったのだと思うが、ペルーのパン屋さんのパンよりずっとおいしかった。これで3ソレス(4月26日現在1ソル=34円なので102円)ならペルー人も買うわな。ちなみにペルーの物価はそれほど安くなく、食べ物に関しては日本よりもちょっと安いくらいの感覚だ。

しかし、「本当のアレパはトウモロコシの粉でつくる」というアレパ売りの男性の言葉が気にかかる。正統派のつくり方のアレパはもっとおいしい? 

今度は路上のアレパ売りではなく、アレパ専門店で食べてみることに。ベネズエラの経済崩壊は最近始まったことでなく、10年ほど前からその前兆があった。石油依存経済やチャベス大統領による独裁政権などに危機を感じていた国民は早々と国外へと移住していたのである。リマにも数年前から移住していたベネズエラ人が経営するアレパのサンドイッチ店が数軒ある。

リマで一番のおしゃれスポットであるバランコという街にある、その名も「アレパ・カフェ」なる店に行ってみた。カウンターとテーブル席が2つほどの小さなカフェだ。

アレパのサンドの具は牛肉、鶏肉、野菜、ハンバーグなどいろいろあった。お店の人に「いちばんベネズエラらしいのはどれ?」と聞くと、「asado negro」という牛肉をグリルしたものと、「saltado de veg」という野菜をソテーしたものという。迷わずこれらを注文した。

ベネズエラ料理のカフェのアレパ。トウモロコシ粉でつくった本格派

待つこと数分。牛肉と野菜ソテーのアレパサンドが出てきた。アレパは路上で買ったものより皮がかなり薄い。でも、トルティーヤよりも厚い。そして、中身がたっぷりの、かなりの豪華版(まあ、値段も路上のとは違うしね)。大きな口を開けないと食べられないぞ!

野菜のアレパサンドからいただくと、トウモロコシだけでつくった皮は、イングリッシュマフィンの表面だけを食べた感じで、パリパリ感と香ばしさが路上で売っていたものより格段に上。野菜の甘味とよく合う。これは絶品! 

炭火でグリルした牛肉が入ったアレパ 17ソレス(約578円)

牛肉の方はゴーダーチーズが入っていて、かなりガッツリなお味。でも、アレパは皮が薄いのと、南米の牛肉は日本のそれとは違い脂身が少ないので、意外とお腹におさまってしまう。しかも、南米の牛肉は赤身自体に旨(うま)みがあってとてもおいしいのだ。どちらも甲乙つけがたく美味であった。

彼らがアレパを売るのは生計を立てるためもあるけど、自分がきっと食べたいんだね、と思った。そして、自慢のソウルフードを移住先の国の人にも食べて欲しいのかもね。そんなふうに思った。

「食」は異国で生計を立てる手段となり、そして異国で暮らす自分たちを癒し、奮起させるエネルギーのモト。「芸は身を助く」じゃないけど、「食は身を助く」なのである。

(ライター 柏木珠希)