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経済危機ベネズエラから世界へ 移民広める故郷のパン

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ベネズエラの経済危機は世界的なニュースだが、日本では新聞やテレビのニュースに取り上げられることは非常に少ない。

正式名称ベネズエラ・ボリバル共和国。南アメリカ大陸の北部に位置する天然資源が豊富な美しい国だ。世界トップクラスの原油埋蔵量を誇り、2000年前半までは南米屈指の裕福な国であった。が、世界的な原油価格の下落と石油政策の失敗により経済が破綻。多くの国民が貧困にあえいでおり、昨年1年間で国民の体重は平均11キロ減ったという。

私は中南米を長期滞在しながら旅をしているが、ベネズエラ以外の国でもベネズエラの深刻な状況は肌で感じる。そして、それは主に「食」や「食の現場」を通じてである。

というのも、現在、約3000万人の国民のうち約220万人のベネズエラ人が自国に見切りをつけ、国外に移住している。彼らはまず隣接するコロンビアかブラジルにバスか徒歩で渡る。その後、彼らの多くは比較的治安がよい、彼らの公用語であるスペイン語圏のエクアドル、ペルー、アルゼンチン、チリを目指す(ブラジルの公用語はポルトガル語)。そこで彼らは故郷のソウルフード・アレパと呼ばれるパンを道端で売ったり、レストランで働いたりして生活費を稼いでいるのだ。

昨年の夏ごろ、ペルーの首都・リマで現地の駐在妻とランチをしていたときのこと。レストランでオーダーをし終わるやいなや「いまのカマレロ(ウエーターのこと)、たぶんベネズエラ人だね」と彼女が言った。

「へぇ! なんで分かるの?」と聞くと、「だってスペイン語の発音がペルー人とは違うもの」との答え。

南米の多くはスペイン語が公用語だといっても、その国ごとにちょっとずつ使う単語や発音に違いがある。さすが駐在歴3年にもなると、そのへんの違いも分かるようである。

「ほら、それにちょっとカッコいいじゃない?」となんだかうれしそう。ペルー人はあまり背が高くなくポッチャリした体形の人が多い。対して、ベネズエラは石油産出国だけでなく実は「美女美男産出国」としても知られ、女も男もかっこいいのだ。

「ミス・ワールド」「ミス・インターナショナル」「ミス・ユニバース」といった美を競う世界的なコンテストで、ベネズエラは世界で2番目に多く優勝者を出している(ちなみに1位は米国)。そういえば、テレビのミスコン番組を見ていると、ベネズエラがいつもファイナル戦まで残っている印象がある。

私は知らなかったが、「ミスター・インターナショナル」「ミスター・インターコンチネンタル」「ミスター・ワールド」といったミスターコンテストもあるそうで、やはりベネズエラ男性の優勝者が多いのだとか。

そのカマレロに「あなた、どこ出身?」と話しかけると案の定ベネズエラで、食べ物も薬もトイレットペーパーさえないという物資不足やデモなどによる治安悪化から逃げてきたのだといった。

友人の駐在妻によれば、最近リマのレストランのカマレロ、カマレラ(こちらは女性形なのでウエートレスの意味)はどこもペルー人からベネズエラ人に変わりつつあるとのこと。また、街中でもバスの中でもベネズエラ人の物売りが増えてきているということだった。

彼らの多くは「アレパ」というパンを売っているという。アレパとは乾燥トウモロコシを挽(ひ)いてつくった粉でつくる薄焼きパンのこと。ハムやチーズ、卵、肉や野菜をはさんでサンドイッチにして食べるソウルフードらしい。

トウモロコシでつくった薄焼きパンというからにはメキシコや中米で食べられるトルティーヤのようなものだろうか。

「みんなけっこう買ってあげてるわよ。やっぱりペルー人はやさしいなぁと思うのよ」

そう友人は言った。私自身も旅の最中、幾度もペルー人の親切に支えられてきたので同感である。

その後、街中やバスの中を意識しながら観察してみると、たしかにベネズエラ人の物売りは多かった。彼らは祖国の国旗を持っていたり、国旗柄のTシャツや帽子を身につけていたりするので、ベネズエラ人とすぐ分かる。そして、確かにペルー人たちは彼らを見つけるとアレパを買ってあげていた。

うん、やっぱりペルー人はやさしいなぁ。

また別の日に、今度はペルー在住の日本人女性と会った。やはり最近リマで増えているベネズエラ移民の話題になった。

「路上もバスの中もベネズエラ人の物売り、いっぱいいるね」と私がいうと、彼女はこんなふうに言った。

「そうね。でも私、あのうちの何%かはわざとベネズエラなまりで話す、ベネズエラ人を装ったペルー人じゃないかと疑ってる。だって、いまはベネズエラ人と思われたほうが商品が売れるもの!」

なんと! さすが在住歴10年ともなるとペルー人に対する洞察がさらに深い。在住歴によって語学やペルー人の国民性に対する理解力に差があるのがなかなか興味深かった。そう、ペルー人はやさしいだけでなく、たくましい。

いや、でも本当にたくましいのは、知らない国で職をつくり生きていくベネズエラ人だ。そして、国民がそうせざるを得ないほどベネズエラはひどい状況になっているんだなぁと感じた。

さて、彼らの売る祖国のパン「アレパ」とはいかなるものか。ベネズエラ人が多くいるらしい「ガマラ」という衣類問屋街に行って、ベネズエラ国旗の帽子をかぶった男性を見つけてアレパを買った。

大きさはちょうどハンバーガーくらい。中にニンジンと鶏肉が入っているという。彼によると「本当のアレパはトウモロコシで作るんだけど、これは小麦粉で表面だけトウモロコシの粒をまぶしているんだ」と言っていた。

日本企業の駐在員は立ち入り禁止という若干治安の悪いエリアだったので、その場では食べずに宿に持ち帰った。中身を見てみると、ニンジンの千切りにゆでて裂いた鶏肉のほかに、ソテーしたバナナが入っている。味つけはシンプルで塩・こしょう、ちょっぴりのオイルのみ。

食べてみると、パンはちょうどイングリッシュマフィンのようで表面の挽いたトウモロコシの粒が香ばしくてとてもおいしい。バナナは火を入れると酸味が出るので、ちょうどハンバーガーのピクルスのよう。いい仕事をしてくれている。

ペルーは最近では「美食の国」として注目を浴びているのだけれど、実はパンだけはイケてない。パサパサ、モサモサとしていてあまりおいしくない。

このアレパは、パン職人でもない普通のベネズエラ人たちが家族で身を寄せあっている小さな家の小さなキッチンでつくったのだと思うが、ペルーのパン屋さんのパンよりずっとおいしかった。これで3ソレス(4月26日現在1ソル=34円なので102円)ならペルー人も買うわな。ちなみにペルーの物価はそれほど安くなく、食べ物に関しては日本よりもちょっと安いくらいの感覚だ。

しかし、「本当のアレパはトウモロコシの粉でつくる」というアレパ売りの男性の言葉が気にかかる。正統派のつくり方のアレパはもっとおいしい? 

今度は路上のアレパ売りではなく、アレパ専門店で食べてみることに。ベネズエラの経済崩壊は最近始まったことでなく、10年ほど前からその前兆があった。石油依存経済やチャベス大統領による独裁政権などに危機を感じていた国民は早々と国外へと移住していたのである。リマにも数年前から移住していたベネズエラ人が経営するアレパのサンドイッチ店が数軒ある。

リマで一番のおしゃれスポットであるバランコという街にある、その名も「アレパ・カフェ」なる店に行ってみた。カウンターとテーブル席が2つほどの小さなカフェだ。

アレパのサンドの具は牛肉、鶏肉、野菜、ハンバーグなどいろいろあった。お店の人に「いちばんベネズエラらしいのはどれ?」と聞くと、「asado negro」という牛肉をグリルしたものと、「saltado de veg」という野菜をソテーしたものという。迷わずこれらを注文した。

待つこと数分。牛肉と野菜ソテーのアレパサンドが出てきた。アレパは路上で買ったものより皮がかなり薄い。でも、トルティーヤよりも厚い。そして、中身がたっぷりの、かなりの豪華版(まあ、値段も路上のとは違うしね)。大きな口を開けないと食べられないぞ!

野菜のアレパサンドからいただくと、トウモロコシだけでつくった皮は、イングリッシュマフィンの表面だけを食べた感じで、パリパリ感と香ばしさが路上で売っていたものより格段に上。野菜の甘味とよく合う。これは絶品! 

牛肉の方はゴーダーチーズが入っていて、かなりガッツリなお味。でも、アレパは皮が薄いのと、南米の牛肉は日本のそれとは違い脂身が少ないので、意外とお腹におさまってしまう。しかも、南米の牛肉は赤身自体に旨(うま)みがあってとてもおいしいのだ。どちらも甲乙つけがたく美味であった。

彼らがアレパを売るのは生計を立てるためもあるけど、自分がきっと食べたいんだね、と思った。そして、自慢のソウルフードを移住先の国の人にも食べて欲しいのかもね。そんなふうに思った。

「食」は異国で生計を立てる手段となり、そして異国で暮らす自分たちを癒し、奮起させるエネルギーのモト。「芸は身を助く」じゃないけど、「食は身を助く」なのである。

(ライター 柏木珠希)

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