通勤電車に乗ると、ビジネス用のバッグがバラエティ豊かになっていることを実感する。ビジネスバッグはどのように多様化してきたのか。その歴史を振り返ると、最新のトレンド、そして自分に合ったバッグが見えてくる。長年、カバンの歴史を見続けてきた納富廉邦氏が解説する。
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ノートパソコンの普及でカバンは軽量化
最近、トートバッグやリュックタイプのかばんを持つビジネスパースンが増えているが、「ビジネスバッグの定番」と言われた場合、多くの人が思い浮かべるのは、まだブリーフケースが多いのではないだろうか。
しかし、ブリーフケースは昔から定番だったわけではない。その前には、アタッシェケースやパイロットケースのような、大きくて角張った形の頑丈なかばんがもてはやされていた時代もあった。ビジネスバッグの「主役」は時代とともに変わっているのだ。
1990年前後には、ゼロハリバートンやリモワのような金属製アタッシェケースが流行した。そこから主役が革や化学繊維のブリーフケースへ移行していった大きな要因は、ノートパソコンの普及だろう。ノートパソコンを入れて持ち運ぶには、アタッシェケースはそれ自体が重すぎるのだ。
ノートパソコンが普及した2000年代に入ると、パソコン用パッドが入った化学繊維のブリーフケースが主流になっていく。カッチリしたスーツからソフトなシルエットのジャケットへ流行が移行していくのと歩調を合わせるように、カバンも角が落ちた柔らかなムードのものが増えてきた。
この時代に爆発的に流行したのが、革以上に丈夫な素材を用い、小物を整理して持ち運べる機能性を備えたTUMIのブリーフケース。ノートパソコンの普及、ビジネスバッグは革でなくても構わないというムードが、その人気を後押しした。
しかし、2010年代に入ると、新たな動きがみられるようになる。ビジネスパースンでも荷物が極端に多い人と、少ない人に分かれていったのだ。ビジネスバッグもそれぞれのニーズに分かれていく。
ビジネストートの登場
ノートパソコンの普及だけでなく、「ノマド」「フリーアドレス」といった新しい働き方によって、いままで持ち歩かなかった文具などをかばんに入れる人も増えていった。そんな荷物が多い人に支持されたのがビジネストートだ。