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101号室の拷問シーンで思う、人間の弱さ(井上芳雄)

第21回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。今月は『1984』の舞台が東京、兵庫、愛知と5月20日まで続きます。国家によって思想や行動などのすべてが監視、統制されている社会で、体制に反抗しようとして捕まり、101号室という独房で拷問を受けることになる主人公ウィンストンが、僕の役です。出すっぱりなうえに演技にかなりの集中を強いられる役で、毎回2時間があっという間。今日のお客さんの反応はどうかなとか思う余裕もなく、ストーリーがどんどん進んでいき、もう終わりかという感じになります。演じていて、人間の弱さやいろんなことを考えさせられるし、お客さんもそれぞれの見方ができる作品ではないでしょうか。

原作の『1984』は英国の作家ジョージ・オーウェルが、1948年に書いた小説です。近未来を予測した内容で、その1984年はとうに過ぎましたが、昨年トランプ米政権ができたとき、米国でベストセラーになりました。それだけ現代的なテーマを扱っています。

一言でいえば、管理社会の話です。劇中では、街中の至る所にテレスクリーンという街頭テレビと監視カメラを兼ねたような装置があり、国民の行動は全部監視されています。今の東京を考えても、都心部にはどこに行っても映像モニターがあり、個人の情報もインターネットで管理される時代になりました。現実がどんどん『1984』の世界に近づいているような気がします。見方によっては超えている部分も。

そういう内容なので、舞台でも壁にテレスクリーンの映像を映したり、その映像と実際の芝居がシンクロしたりと、いろんな面白い仕掛けがあります。とても現代的なお芝居といえるでしょう。監視カメラで常に見られているという劇中の設定と、お客さんが舞台を見ているという現実がリンクしているのですが、演じている側は自分がどう見えているのか分からないので、そこが緊張感につながっているように思います。

暗転の演出が多いのも特徴で、役者からすると演技が難しい箇所でもあります。急に電気が消えて、「何だ? どうした、どこだ?」とか、どこからか声が聞こえてきて、「誰だ?」といった理屈だけでは通らないセリフも多くて、そこをどうやって皮膚感覚を持って通していくかについては、演出の小川絵梨子さんと何度も話し合い、稽古を重ねました。

101号室での拷問シーンは、びっくりされたお客さんも多いようです。僕にとっては、初めてチャレンジする演技です。以前、井上ひさしさんの『組曲虐殺』というお芝居で、プロレタリア文学の作家で共産主義の活動家だったために迫害を受ける小林多喜二を演じましたが、拷問シーン自体はありませんでした。ましてやミュージカルだと、そんな残虐なシーンはまずありません。

拷問シーンを演じてみて思うのは、想像力がすごく必要だということ。身体のどこを切られて、どこが痛んでとイマジネーションを最大に膨らませないといけない。とはいえ本当に拷問されているわけではないので、気持ちをそこまで持っていくには、ある種のテンションが必要で、始まってしまうと、自分でも制御が効かない状態になります。鉄の椅子に座らされて、電気を通されるシーンでは、ショックで体がビクッ、ビクッと震える動きの抑えようがなくて、毎回椅子に体を打ちつけ続けます。終わったら背中がバキバキになっているくらい痛いのですが、それ以外のやり方も分からないから、無我夢中です。

ネズミに顔を食べさせる拷問も、すごく怖いやり方です。僕がハマっている海外ドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』に、やはりネズミを使った拷問の場面があったのですごくリアルに思えました。『1984』の拷問シーンは、その後の小説や映画、ドラマに多大な影響を与えています。それを実感して、小川さんともそんな話をしました。見た方からは「ネズミが苦手だから、あのシーンはとても耐えられなかった」という感想をけっこう聞きました。

ウィンストンの中にある希望と弱さ

そういうことを思うと、ウィンストンは拷問によく耐えたと思います。たいていの人は、最初に指を切られた時点でギブアップするのではないでしょうか。そこをこらえるというのは、まだ望みを捨ててないんですね。自由な世界を信じている。

では彼がヒーローかといえば、必ずしもそう描かれていないのが、この作品の深いところです。愛が大事だといいながら、愛がどうやってシステムを壊すんだと問われれば、ウィンストンは答えることはできない。そして拷問がエスカレートすると、最後は自分の一番大切なものを差し出してしまう。自分を守るために。悲しいけれど、それが人間の本当の姿なのかもしれません。

だから演じるときに気をつけているのは、ウィンストンを必要以上に大きな人間に見せないこと。気づいてしまった1人の普通の男が、おびえ苦しみながらどう生きたのか。彼の中にある希望と弱さの両方が伝わっていればいいな、と思っています。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第22回は5月19日(土)の予定です。

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