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井上芳雄 エンタメ通信

101号室の拷問シーンで思う、人間の弱さ(井上芳雄) 第21回

日経エンタテインメント!

2018/5/5

 井上芳雄です。今月は『1984』の舞台が東京、兵庫、愛知と5月20日まで続きます。国家によって思想や行動などのすべてが監視、統制されている社会で、体制に反抗しようとして捕まり、101号室という独房で拷問を受けることになる主人公ウィンストンが、僕の役です。出すっぱりなうえに演技にかなりの集中を強いられる役で、毎回2時間があっという間。今日のお客さんの反応はどうかなとか思う余裕もなく、ストーリーがどんどん進んでいき、もう終わりかという感じになります。演じていて、人間の弱さやいろんなことを考えさせられるし、お客さんもそれぞれの見方ができる作品ではないでしょうか。

『1984』は5月13日まで東京・新国立劇場小劇場、5月16、17日 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、5月20日 愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホールにて上演(撮影:宮川舞子)

 原作の『1984』は英国の作家ジョージ・オーウェルが、1948年に書いた小説です。近未来を予測した内容で、その1984年はとうに過ぎましたが、昨年トランプ米政権ができたとき、米国でベストセラーになりました。それだけ現代的なテーマを扱っています。

 一言でいえば、管理社会の話です。劇中では、街中の至る所にテレスクリーンという街頭テレビと監視カメラを兼ねたような装置があり、国民の行動は全部監視されています。今の東京を考えても、都心部にはどこに行っても映像モニターがあり、個人の情報もインターネットで管理される時代になりました。現実がどんどん『1984』の世界に近づいているような気がします。見方によっては超えている部分も。

 そういう内容なので、舞台でも壁にテレスクリーンの映像を映したり、その映像と実際の芝居がシンクロしたりと、いろんな面白い仕掛けがあります。とても現代的なお芝居といえるでしょう。監視カメラで常に見られているという劇中の設定と、お客さんが舞台を見ているという現実がリンクしているのですが、演じている側は自分がどう見えているのか分からないので、そこが緊張感につながっているように思います。

 暗転の演出が多いのも特徴で、役者からすると演技が難しい箇所でもあります。急に電気が消えて、「何だ? どうした、どこだ?」とか、どこからか声が聞こえてきて、「誰だ?」といった理屈だけでは通らないセリフも多くて、そこをどうやって皮膚感覚を持って通していくかについては、演出の小川絵梨子さんと何度も話し合い、稽古を重ねました。

 101号室での拷問シーンは、びっくりされたお客さんも多いようです。僕にとっては、初めてチャレンジする演技です。以前、井上ひさしさんの『組曲虐殺』というお芝居で、プロレタリア文学の作家で共産主義の活動家だったために迫害を受ける小林多喜二を演じましたが、拷問シーン自体はありませんでした。ましてやミュージカルだと、そんな残虐なシーンはまずありません。

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