C'EST NON NON NON ET NON!――。フランスの高級ブランド「ディオール」が2月、パリで開いた2018~19年秋冬コレクション。冒頭を飾ったのは「異議申し立て」のメッセージを大きく胸にあしらったセーターだった。会場は当時のファッション誌の表紙やスローガンなどで埋め尽くされ、50年前にパリで起きた学生運動「五月革命」へのオマージュであふれていた。ディオールだけではない。「グッチ」も18年プレフォールコレクションの広告ビジュアルで、五月革命をモチーフに採用。その影響の大きさをうかがわせる。
1968年5月、フランス・パリの学生街、カルチェ・ラタンから始まった既存体制に対する「異議申し立て」の運動は瞬く間に仏全土を覆い、ゼネスト(ゼネラルストライキ)に発展。当時のドゴール政権を揺るがすまでとなった。
こうした当時の「スチューデントパワー」の爆発はフランスに限ったものではなかった。ベトナム反戦運動などを背景に、米国や日本などでも同時多発的に発生、当時の若者文化に大きな影響を与えた。その一大ムーブメントから半世紀。今なおその影響はあらゆる分野に及ぶ。当然、「装い」も例外ではない。
■わずか2カ月で劇的に変化
服飾史家の中野香織氏は「五月革命は5月3日に始まり6月30日に終わったが、その間に人々の服装ががらりと変わった」と指摘する。
五月革命前夜、男子学生たちの服装は「プレッピースタイル(米国東海岸の学生風スタイル)」に代表される、戦前の保守的な格好。女子も端正なスカート姿が主流だった。ところが運動も最終盤になると、男女ともにジーンズやサンダル、サイケデリックプリントなどが増えてくる。男性にはヒゲと長髪が目立つようになる。
「ジャケットとタイといった装いは、古い体制の象徴とされた。髪形もそう。スクラッフィー(scruffy=英語で『きれいに整えられていない』の意味)というか、男性も女性も髪形をきちんと整え上げることにあまり手間をかけなくなった。装いのユニセックス化が進んだ」
■産業としても大きな転換期に
ファッションは産業としても大きな転換期を迎える。中野氏が注目するのが「イブ・サンローラン」だ。66年、セーヌ川の左岸にブティックを開き、プレタポルテ(既製服)のコレクション「リブゴーシュ」を立ち上げた。リブゴーシュとは仏語で「左岸」の意味。セーヌ川左岸は、カルチェ・ラタンがあり、知識人や芸術家が多く集まる先鋭的な地区。エルメスなど保守的なブランドが集まる右岸に対抗した格好だ。