若い世代も肉から大豆へ じわじわ広がる「豆食」
この50年あまりで、日本における肉類の消費量は10倍に増えた(注)。「私、肉食女子!」という女性も少なくない。ところが一方で「肉から豆」へのシフトが進んでいるという。実は、小さいときから肉が食べられず、大豆を主なたんぱく源として育った筆者にとって「豆」の動向は大問題。大豆をめぐる状況を専門家に聞いた。(注)農林水産省「食料需給表」による
「ベジファースト」から「大豆ファースト」へ
まず、最近耳にするのが「大豆ファースト」という言葉。食事の最初に大豆から食べることで健康効果が期待できるというものだ。
フジッコは2018年3月、「蒸し大豆(大豆ファースト)による食後血糖値上昇抑制効果」を検証した結果を発表。血糖値の急激な上昇を抑えるため、食事の最初にサラダなど野菜を食べる「ベジファースト」が有効とされている。ところが食事の前に蒸した大豆を食べる「大豆ファースト」の方が、ベジファーストよりも少量で食後血糖値の上昇を同等以上に穏やかにすることが分かったという。
「かくれ高血糖が体を壊す」などの著書を持つ池谷医院の池谷敏郎医師はこう話す。「ベジファーストではサラダにかけるドレッシング(オイル)や食塩などが問題になるが、蒸した大豆ならそのまま食べられる。野菜サラダ100グラムに含まれる食物繊維が、蒸した大豆なら26グラム、30粒ほどで取れる」
池谷医師によると、ヨーグルトに蒸した黒豆を添えたり、野菜ジュースに蒸し大豆を入れて電子レンジで温めるだけの大豆ファーストスープもおすすめだそう。
簡便さも、たんぱく源としての豆の大きなメリットだ。筆者は自分で蒸した大豆を容器に入れて持ち歩いているが、市販の蒸し大豆製品も増えている。手軽な大豆ファーストはさらに注目を集めるかもしれない。
若い世代でも進む「大豆・植物性食へのシフト」
大豆をたんぱく源として取るなど「植物性食」へのシフトも進んでいるという。
不二製油グループ本社が17年11~12月に日本と米国で実施したインターネット調査(日本、米国の男女合計1446人を対象)によると、日本では34.0%が植物性食中心のライフスタイルに興味を持ち、半数以上がベジファーストや野菜多めの食事を実践していた。積極的に取ろうとしているたんぱく源の1位は納豆や豆乳、おからなどの大豆製品だった。
同じ調査で米国のミレニアル世代(1980年代から00年代初めに生まれた世代)は何と約4割(38.7%)がベジタリアンと回答。16.6%は場合によっては肉も食べる柔軟な菜食主義者「フレキシタリアン」だったが、全体の75.9%が「動物性食を控えたい」と回答した。
調査を監修した社会学者の品田知美さんは「米国ミレニアル世代の約4割が広義のベジタリアンという数字は日本人の10倍以上で、驚きだ」と話す。ベジタリアンの重要なたんぱく源のひとつは、やはり「豆」。米国ミレニアル世代の食トレンドは、遠からず日本にも影響を与えるだろうという。
大豆食材から多様なメニュー
大豆のメニューを積極的にそろえるカフェやレストランも着実に増えつつある。
東京都中央区の「ダンスキューブ・カフェ」は、ダンサーも多く訪れる店。高たんぱく・低カロリーのメニューに力を入れているが、16年2月から大豆を使ったメニューを提供しており人気という。ランチタイムは近隣で働く女性や子連れの女性で満席になる。
メニュー開発でコラボしたのは、食品メーカーや流通、外食など44社でつくる「まめプラス推進委員会」。メニューの中心は豆乳からつくったチーズやクリーム、大豆ミートなどを使用したソイタリアン(大豆を使ったイタリアン)だ。
「大豆ミートのオールベジタコライス」「大豆ミートのオールベジカレー」(いずれも1200円)はもちろん肉なし。「旬野菜と海老の豆乳クリームグラタン」(1100円)も大豆食材だけだがコクと食べごたえは十分。
極めつきは「ティラティス」(550円)。見かけは完全な「ティラミス」だが、大豆クリームでつくられており、チーズそのものの味わいだ。
料理に使われている大豆食材は、不二製油のUSS(ウルトラ・ソイ・セパレーション)と呼ばれる製法によってつくられた豆乳がベース。その豆乳からつくったホイップクリームやスープ、チーズのような豆乳ブロックなどが様々な料理に使用されている。
欧米ではベジタリアンやビーガン向けにこうした大豆の加工食材がスーパーなどで手軽に購入できる。日本ではまだ一般消費者が手軽に買えるものは少ないが、今後確実に増えてきそうだ。
(ライター 大崎百紀)
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界