空港初のワイン醸造所 伊丹空港が改修、34店開業
約50年ぶりの大規模改修プロジェクトが進行中の大阪国際空港(伊丹空港)の中央エリアが2018年4月18日、先行オープンした。かつては名実ともに国際空港として機能し、世界の主要都市と路線を結んでいた大阪国際空港だが、関西国際空港の開港以降、全盛時のにぎわいを失っていた。それでも年間約1500万人が利用する。国際線復活論も叫ばれるなか、地域のランドマークを目指して生まれ変わった空港内部をのぞいてきた。
南、北、中央棟で構成されたターミナルビルは航空会社によって利用施設が南北に二分されていたため、これまでなにかと不便に感じることが多かった。今回の改修で到着口を2階中央に集約。これによって出迎え時の待ち合わせなどが分かりやすくなるほか、モノレールやバス、タクシー乗り場へのアクセスもスムーズになり、利便性が高まった。
同時に中央エリアと屋上エリアの商業ゾーンも全面改装し、空港初出店など34店舗がオープン。展望デッキも滑走路側に約20メートル増床し、面積は約7700平方メートルと改装前に比べて約1.5倍拡大した。
2016年から大阪の2空港の運営会社として事業を開始した関西エアポートの山谷佳之社長兼CEOは、「以前の体制では難しかったが、商業施設の運営ノウハウを持つヴァンシ・エアポート(空港運営会社)などの知恵も生かし、集客力のある商業施設を目指した。飛行機に乗るためだけの施設から、ウキウキする、高揚感の持てる場所にし、周辺地域の住民にも日常的に利用してほしい」と話す。
できたてワインを味わえるワイナリー併設バル
全面改装した中央エリアの商業ゾーンは、1~3階がレストラン街と物販エリア、4階の屋上がカフェ&ダイニングと物販、遊び場などの施設で構成。物販12店舗、飲食18店舗、サービス4店舗が出店し、そのうち30店舗が新規出店。約半数が国内空港では初の店舗となる。
なかでも注目は、3階レストラン街にオープンした「大阪エアポートワイナリー」だ。運営するのは、東京都内で3番目のワイナリー「深川ワイナリー東京」を展開するスイミージャパン。醸造歴20年以上の醸造家・照屋賀弘氏が手掛ける、空港内初のワイナリー併設バルだ。海外にはビール醸造所のある空港はあるが、ワイン醸造所は世界でも初めてという。
店内には600リットルのワイン醸造タンクが5基配置され、醸造風景を眺めながらワインを堪能できる。年間生産本数は約1万2000本。現在、タンクで醸造中のワインは長野県塩尻産のブドウを使い、6月から提供される予定だ。8月からは山梨、長野、山形、青森、北海道産、冬場はオーストラリア産のブドウでワインを醸造する。
店内にはフレッシュなワインをグラスに直接注げるタップコーナーもあり、同店のワインはもちろん、常時8種類の国産ワインを提供。「深川ワイナリー東京」をはじめ、大阪の「カタシモワイナリー」や「河内ワイン」、清澄白河の「フジマル醸造所」など全国有名ワイナリーから直送のたる出しワインを味わえる。
料理は地元の食材をメインに使った南イタリア料理。3種類のタップワインを飲み比べできる前菜の盛り合わせのほか、「大阪たこやき風ゼッポリーニ」や「ドテ焼き風トリッパの煮込み」など、「なんちゃってソウルフード」がおすすめ。
深川ワイナリーのファンで、東京から駆けつけた40代女性は、「深川ワイナリーではワインに合う料理を提供してくれるので、日本の軽いワインも飲むようになった。これまで大阪出張は新幹線を利用していたが、ココに立ち寄るために空港に来る機会が増えると思う」と、顔をほころばせた。
同店を運営するスイミージャパンの中本徹社長は「空港は人が集まったり出発したりする起点になる場所。日本一小さいワイナリーだが、『空飛ぶ葡萄のワイナリー』として日本のワインを広めていきたい。旅行客はもちろん、近隣の住民や館内で働く従業員にも、まちバル的な感覚で気軽に利用してほしい」と、空港初の店舗に期待を寄せる。
関西ではココでしか買えないスイーツ販売
2階には高級版キットカットを販売する「キットカット ショコラトリー」が、常設店として初めて空港に出店した。直営店としては7店舗目で、銀座本店と同様にカフェも併設した。同店を展開するネスレ日本・コンフェクショナリー事業本部ビジネス開発部の竹内雄二部長は、空港への出店の狙いをこう語る。
「ショコラトリーには男性客も多く来店される。ビジネスパーソンが出張で空港を利用するときに、得意先への手土産や家族への感謝の気持ちとして気軽に買えるように店を作った。今後も空港や駅ナカなど交通量の多い立地に積極的に出店していく」。2014年から17年末までのショコラトリーの累計売り上げは小売ベースで40億円。日本は世界で一番キットカットが売れる国だという。
同店で販売するプレミアムキットカットは全17品。天然のピンク色のルビーチョコレートを世界で初めて商品化し、18年1月からショコラトリーで独占販売する「サブリム ルビー」のほか、「信州りんご」「田丸屋本店わさび」など各地の特産品を使った「ご当地シリーズ」、パッケージデザインに大阪らしさを取り入れた伊丹空港限定のギフト商品を用意する。
同店では地元客のデイリーニーズに対応し、ショコラトリーを全面監修する「ル パティシエ タカギ」のオーナーシェフ、高木康政氏が作るスイーツも販売。関西では唯一同店で購入できるだけに、リピーターの獲得も期待できそうだ。
大阪ならではのグルメや土産品が充実
ほかには、アカデミー賞公式パーティー総料理長のウルフギャング・パック氏がプロデュースするピッツァメインのカフェ「ウルフギャング・パック ピッツァ」や、楽天トラベル「朝ごはんフェスティバル2015」で日本一になった朝食ベーカリーセットを提供するホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドの直営店「ル・パン神戸北野」、創業350年の城崎温泉の老舗旅館「山本屋」とコラボする海鮮料理店「海キッチン KINOSAKI」、大阪長居生まれのお好み焼の名店が手がける新業態「大阪お好み焼き 清十郎」、大阪梅田で「大阪地下街カレー」として親しまれてきた「ダイヤモンドカリー」、大阪・黒門市場に店を構えて90年の「大阪黒門市場まぐろのエン時」が、国内空港初出店。大阪銘菓おこしを販売するあみだ池大黒の新業態「ポンポン×クリスピー」や、うどんすきの「美々卯」、カフェ「丸福珈琲店」など大阪ならではの店も顔をそろえた。
展望デッキに隣接した屋上エリアには、地域の若いファミリー世帯や旅行中の親子のニーズに応える施設を中心に配置。親子向け遊戯施設と玩具の専門店を合体した「ボーネルンドあそびのせかい」では、飛行機を間近で見られる屋外遊び場もある。また、吉本興業が展開する「よしもとエンタメショップ」にはよしもとのキャラクターグッズやNMB48グッズがそろう。不定期でお笑い劇場の開催も予定されているので、お笑い好きはぜひチェックしておきたい。
改修工事は2020年の全面オープンに向けて今後も続く。19年には老朽化した立体駐車場を建て替え、20年夏には国内空港初のウォークスルー型の商業ゾーンが開業。ゲートエリアの商業施設面積は従来比で4.5倍に拡大する。さらに、ムービングウォークを大幅増設するほか、昨年試験運用を開始した最先端の保管検査機「スマートレーン」を国内線で初めて導入し、検査時間の短縮化を図る予定だ。
[日経トレンディネット 2018年4月26日付の記事を再構成]
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