「輝くキャリアは目指していない」 私の幸せな働き方
転職を機に営業職を選ぶ人もいれば、反対に営業を離れて違う職種で活躍する人もいます。今回は、百貨店の接客販売から教育業界の営業に転職。その後、産休と育休を経て事務職に転向したN・Eさんに、それぞれの職種の違いやワーママの本音を伺いました。
【仕事内容】新卒で百貨店の接客販売を経験後、教育業界に転職。入学希望者への個人カウンセリングや学校への法人営業を担当した後、出産を機に事務職に配置転換。現在は学校の事務と受付を担当。
【現在の手取り月収】約25万円
【現在の手取り年収】約380万円
【現在の仕事満足度】70点
自分は一生販売を続けるの? キャリアに悩んで転職を決意
――22歳の時に新卒で百貨店に入社し、26歳で退職されたと伺いました。この時は、なぜ接客販売の仕事を辞めようと思ったのですか?
「いくつか理由があるのですが、まず一つ目は、高校時代の恩師の存在です。先生は独身で教員をしていたのですが、定年退職をした後も教え子の結婚式に招かれるなど、『教員』というキャリアを確実に築いている人でした。そんな恩師の『教員人生』を考えたときに、『自分は一生販売の仕事をしていくのだろうか?』という疑問が生じ、自分なりに考えた結果、接客販売というキャリアを終わらせようと思ったんです。
またその頃は、大学時代の友人が『やりたいことのために会社を辞めた』という話を聞いて、『自分が本当にやりたいことは何なのか?』という疑問にぶつかった時期でもありました。その友人は、私が知る中でも一番真面目で、ずっと仕事を続けていくタイプだと思っていたので、当時は衝撃も強かったんです。
そういった出来事が重なり、26歳で退職した後は、1年弱程、海外留学をしていました。そして27歳で今の職場に転職。教育業界で営業職に就きました。
営業を選んだ理由は、百貨店での接客販売のスキルを生かせる仕事だったから。今の会社の採用試験を受けた時に、初対面の人とでも打ち解けて話すことができるコミュニケーションスキルを買われて、入学相談を担当する営業となりました」
――実際に営業をしてみて、どうでしたか? やりがいはありましたか?
「そうですね。人と話すのが好きだったので、お客様からも元気をもらえていました。『Nさんが相談に乗ってくれたから入学を決めました』と言ってもらえることも多く、それがやりがいにつながっていましたね。また、自分の裁量でスケジュールを組めたところもよかったです」
――営業時代、契約を取りやすくするために心掛けていたことや、工夫していたことなどがあれば教えてください。
「マシンガントークをしないように、まずは相手の話を聞いて、相手が知りたいと思っていること・不安に思っていることを中心に説明していました。営業相手が学校の先生の場合は、女性ならではの配慮や細やかさを生かして、出しゃばらない対応を心掛けました」
職場の育休復帰第一号に 事務職でも休みづらい
――営業を経験した後、同じ職場で現在の事務職に就かれています。事務に転向したきっかけは何だったのでしょうか。
「出産をきっかけとした配置転換です。当時、妊娠直前に事務スタッフが立て続けに退職し、人員補充がないまま、私が営業をやりつつ事務業務も引き受けていました。そして出産・育休を経て34歳で復職した時に、そのままの流れで事務職になったんです。
大企業であれば、育休後の職種はある程度自分の希望で選択できるのかもしれませんが、中小企業や事業所単位の場合は、復帰後の職種はその時のタイミングに影響されると思います。私の場合は、自分が職場の育休復帰第一号。前例がなかったので、今後も同じような配置転換が行われるのかは分かりません」
08:30 出社、メール対応、事務処理
12:00 昼食
13:00 外出、各学校への法人営業
16:00 個人カウンセリング、入学相談など
19:30 退社
※21:00までの遅番勤務あり
※残業は1~2時間程度
――「出産を経ても営業が続けられるか不安」という女性はたくさんいます。Nさんとしては、営業と子育ての両立は可能だと思いますか?
「営業は、急なアポが入ると残業になることがあります。また、個人営業であれ法人営業であれ、『外部』との約束になるので、子どもの体調不良などでは休みづらい面はあると思います。
ただ、事務だからといって休みやすいとは限りません。内勤をしていると、『いつもいて当たり前』の存在になってしまうので、そうなると逆に休みづらくなります。その点、営業は『社内にはいないもの』と思われているので、休みを取っても社内の迷惑にはなりづらい。例えば、ペアで動く営業スタイルであれば、直行直帰をすることもできて、両立しやすいかもしれません。
今の事務の仕事は、時短勤務で手取りは減るのに仕事量は減らず、気苦労が絶えません。そのため、両立できるかどうかは、職種というよりは環境に左右される面も大きいと思います」
08:30 出社、メール対応、事務処理、受付対応
12:00 昼食
13:00 メール対応、受付対応、事務処理
18:00 退社
※月10日程度、保育園のお迎えギリギリの18:30まで残業
※時短勤務の場合は17:00退社
――営業職と事務職とでは、必要な能力に違いはありましたか?
「営業は『自分主体』で働くことが求められ、事務は『他者主体』で働くことが求められると思います。自己主張が強く、自らが率先して動くタイプの人は、事務よりも営業が向いているのではないでしょうか。
反対に相手のルールに合わせて動ける人は、事務が向いていると思います。特に教育業界の先生方は自己主張が強く、自分が正しいと思っていることを曲げない人が多いです。そのため、先生方のルールに合わせられることが、何よりも重要な素質です。
私自身は、コツコツとルーティンワークをこなしたり、複数のことを同時進行したりすることが得意なので、先生や学生たちの要望を処理していく事務のほうが向いていると感じています」
「輝く女性像」は私が目指すキャリアではない
――今後はどういうキャリアを築いていきたいと思っていますか? また、転職をするとしたら、今度は事務と営業、どちらを選びますか?
「家族との時間を第一優先にしたいです。ただ、1日中誰とも話さないのは精神的につらく、育休時に専業主婦には向いていないと思ったので、仕事にやりがいを持ちつつも、『バリキャリとゆるキャリの中間』くらいの働き方を目指しています。
今は長期的なビジョンを持てず、「子どもが保育園に通う今後3年間」のことしか考えていません。今の職場で働き続ければ、さまざまな業務ができると思う半面、負担が大きくなり過ぎるのが怖いという思いもあります。
私は管理職になりたいわけでもなく、仕事で達成したい大きな目標があるわけでもありません。『無理なく、普通に、楽しく働きたい』というのが本音です。ワーママの場合、仕事と子育てを両立してキャリアアップしたり、管理職として昇進したりするような、『輝く女性像』を求められがちです。でも、私は高みを目指すのではなく、それなりにやりがいを持ちながら、『そこそこ仕事をして、そこそこお給料をもらって、そこそこ楽しく定年まで働きたいなあ』という感覚を持っています。この『そこそこ』という感覚こそが、私にとっての幸せな働き方なんです。
働き続けることが当然の男性は、今の私と同じように、『そこそこ』の感覚で働いている人も多いような気がします。家族の幸せを守るために、『そこそこ仕事をして、そこそこ昇進して、そこそこ楽しく定年まで働こう』というような……。女性も男性と同じように、『働くことが当たり前』の社会になりつつあります。だから、女性も『輝くキャリア』だけを追い求めるのではなく、『バリキャリとゆるキャリの中間』、つまり『そこそこのキャリア』を目指し、それを当然のこととして発信できるような社会に変化していけばいいなと思っています。
今抱えているストレスを減らすために転職をすることはあるかもしれませんが、転職するにしても、家族との時間を優先できる学校事務に限定して探すつもりです」
・ブランドにこだわりはなく、足が痛くならない履き心地の良いものを選んでいました
・ブランドは問いませんが、着心地のよい「カットソージャケット」がオススメです。また、セシール(カタログ通販)の「ウォッシャブルスーツ」は、高級感はありませんが、安いのにシワにならず、清潔に保てるのでオススメです。
(ライター 青野梢)
[nikkei WOMAN Online 2018年4月24日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。