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早熟のピアニスト斎藤雅広 生涯現役の秘策

2018/4/28

 斎藤氏はロマンチックな叙情をたたえるラフマニノフのピアノ曲への思い入れが強かった。しかし1960~70年代当時は「今と違ってラフマニノフはまだ全然マイナーな作曲家だった」と言う。「ポップスみたいな扱いをされ、試験ではベートーベンを弾くべきだという風潮があった」。彼の分厚い手のひらが鍵盤をなでる。リズムに安定感のあるアルペジオ(分散和音)から、繊細な叙情が浮かび上がってくる。

声楽家や器楽奏者との共演にも定評

 プロとしての活動を通じて、独奏だけでなく、様々な個性の演奏家との共演でも評価を高めていった。父がオペラ歌手だったためか、声楽家との歌曲の共演も多く、定評がある。

ピアニストの斎藤雅広氏(3月28日、東京都中央区のヤマハ銀座店)

 どんな楽譜でも「昔から初見で弾けた。外国人の歌手なら本公演の2日前に来日する。事前の合わせ練習でも(歌手の所望する歌曲のピアノパートを)初見で弾いた」。でも歌手は練習では声量を抑えている。「本番になって、そんな大きな声でしたか、と驚きつつも、すぐに合わせて弾いた」

 最近では器楽奏者との共演も増えている。斎藤氏のピアノ伴奏で昨年CDを出したオーボエの中村あんりさんは「斎藤先生のピアノが始まると、あっという間に一つの世界に引き込んでくれる」と話す。フルートの萩原貴子さん、チェロの新倉瞳さん、クラリネットの赤坂達三氏らと共演し、CDレコーディングもしている。「自分なりの語り口で弾くこと」を共演の基本姿勢にしている。「決してリードはしない。リードしてくれと言われたらするが。基本はキャッチボール」。こうしたピアノ伴奏の姿勢が相手の演奏家の個性と美質を引き出し、共演CDの秀作を生んでいる。

 「子役」の時代から活躍し続ける斎藤氏はいわばクラシック音楽界のご意見番。先輩と後輩を問わず、多数の音楽家と深い親交がある。長年身を置く日本のクラシック音楽界について聞くと、「限られた仕事の椅子取りゲーム」との答えが返ってきた。「多くの音大がある中で、どれだけの音大生がプロの演奏家になれて、しかも長く活躍できるのだろうか。クラシックの演奏家にとって日本は欧州に比べ恵まれた環境ではない」と指摘する。

 「僕がポジションをとれば誰かがあぶれる。その中でいかに生き延びていくか。もう生存競争。戦場みたいなもの。いつも刀を抜いて立っているみたい。油断していたら矢が当たっちゃう」と言って笑い、頭に矢が当たったポーズをとる。「だから精いっぱいやる気持ちがないと、ほかの人たちにも申し訳ないし、生き延びてもいけない」。厳しい話に聞こえるが、本人は終始笑みを浮かべている。余裕があり、人情味にあふれ、楽天的な人柄なのだ。

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