サクラエビ、春漁真っ盛り プリッと甘い桜色
駿河湾でサクラエビの春漁が本格化している。釜揚げにかき揚げ、混ぜご飯……。優しい桜色で、料理に彩りと風味を添える。最近は冷凍や流通技術が発達し、刺し身として食べられる生のままで出回ることも増えている。最盛期は5月。主産地の由比漁港(静岡市)ではとれたてを味わえる専門店が多くあるほか、毎年5月3日には「由比桜えびまつり」も開かれる。
産卵控え、香り・甘みが濃厚に
サクラエビは、駿河湾の水深200~300メートルの深海にすむ。1匹4~5センチほどとエビの中でも小ぶりだが、れっきとした大人だ。夏の産卵を控えた春が最も大きく、香りも甘みも濃厚な旬とされる。資源を守るため、産卵期の夏はとらない。春の漁は6月まで、秋は10月下旬~12月下旬まで行われる。年間を通じて最も漁獲量が多く、味も良いとされるのが5月。天日干しされたサクラエビで、富士川河口の河川敷に「赤いじゅうたん」の絶景が広がっていく。
JR由比駅までは静岡駅から電車で20分ほど。駅の改札をでると、巨大なサクラエビのアーケードが出迎えてくれる。「由比桜えび通り」には、ピチピチのとれたてを味わえる専門店が多く並ぶ。地元でも人気の高い井筒屋(静岡市)で一番人気のメニューは「駿河定食」(1750円)。分厚いかき揚げにサクラエビのお吸い物、サクラエビの炊き込みご飯や甘辛く炊いた自家製つくだ煮、さらにサクラエビかシラスの刺し身が付く。
刺し身は一度も冷凍をしていない生にこだわっている。「せっかく本場に来てくれるなら、一番おいしいものを食べてほしいから」と店長の朝日●(王へんに章)氏は話す。ワサビをちょんと付けていただくと、プリッとした身からほんのり甘い香りが広がる。サクラエビの魅力は「殻ごと全部、食べられるところ」(朝日店長)。殻ごと食べられるため、カルシウムや食物繊維が豊富だ。つくだ煮やかき揚げにすると、エビの殻特有の香ばしさが引き立つ。
井筒屋のかき揚げは分厚さが自慢。粉を極力少なめにし、エビの長いひげをつなぎとしているため風味が豊か。好みでだしまたは自家製のエビ塩を振って食べる。揚げたてのかき揚げはまさに、サクラエビ料理の真骨頂。由比では専門店ごとにかき揚げの厚みや揚げ方が異なるので、おなかをすかせて食べ比べ歩きするのも楽しい。
かき揚げのほかに、地元の一般家庭でよく食べられている鍋料理が「沖あがり」だ。サクラエビを豆腐、ネギなどと一緒にすき焼き風のほんのり甘いだしでサッと煮込む。サクラエビ漁は夜間に深海から浮き上がってくるタイミングを狙う。そのため漁師は夕暮れ時に出漁し「帰港が深夜になることもあった」(元漁師)。沖から戻り、冷めた体を温めるために考案されたという。心も体もホッと和む味わいだ。
増える生食用出荷
サクラエビは小さく、鮮度管理が難しいため干しエビとして出回ることが多かったが、最近は「生食用の出荷も増やしている」(由比港漁業協同組合の宇佐美秀明主任)。冷凍や流通技術の進化で関東圏でも、生のサクラエビを見かけることも多くなった。都内の鮮魚店では1パック100グラムが400円前後と例年並みの価格で並んでいる。
5月3日には例年7万人ほどが訪れる「由比桜えびまつり」が開催される。とれたてのサクラエビやシラスを販売するほか、かき揚げなどの多彩な料理の屋台が並ぶ。サクラエビの便りとともに、漁港は最もにぎやかな季節を迎える。
(佐々木たくみ)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。