――マーケティングで勝てる組織とは?

「もし自社の若手が競合の中堅社員と互角に戦うことができたら、強い組織ですよね。これを目指しました。年数の長い社員は経験を積んで、経験値にして、さらにそれを知識に昇華しています。平均年数が5年とすると、本来5年かかかって習得する知識を2年で提供できるようにした、そういうシンプルな話なんです」

「組織が自律的に成長するためには組織内に知識を蓄積しなければなりません。そのためには定期的にプログラムやビジネスの評価・検証をすべきであり、『済んだことはいいから次のことやって』という指示が出てくる組織は同じ間違いを繰り返す傾向にあります」

CMOは1社に1人いる必要はない

――検証や成果報告はほとんどの企業が実施していると思いますが。

「検証そのものをゴールにしているケースが多い。本来は検証をもとに新たな目標を設定すべきです。目標は売り上げを伸ばすとか凡庸なものではなく、もっと具体的な内容が必要です。売り上げが伸びないとしたらその原因はリピート(再購入)が足りていないのか、トライアル(試供品)が足りていないのかなど、目標設定の前にきちんとした検証をしなければいいかげんな目標になります」

「P&Gではどんなに重要な提案書でも、A4の紙1枚でした。簡潔に、抜けもれなく、論理飛躍がないように、正確に突き詰めて考えるということを教えられました。知識がないと戦えないというシンプルな話を知っている企業が少ないように思います。実行する前に方向を定めてから走らないと無駄や間違いが発生します」

――ところで、SNS(交流サイト)やスマートフォン(スマホ)の普及でマーケティングは変わりましたか。

「実は『アリエール』のときから口コミを重視していました。1997年ですから、まだブログやSNSはなく、ラジオを使っていました。パーソナリティーに自分のこととして洗剤について語ってもらうのです。2000年以降に、ネット上で影響力を持つインフルエンサーを活用したマーケティングが出てきましたが、道具が変わっただけでマーケティングのやり方が変わったとは思っていません」

――今年1月に設立した新会社では「CMOシェアリング」を提唱しています。どんな事業を進めていくのですか。

「資生堂やユニリーバなどは1社1ブランドでなく、複数のブランドで『艦隊』を構成しています。このように多くのブランドを持つ会社では、CMOが各ブランドに直接介入するマイクロマネジメントを始めてしまうと負けだと思っています。個々のブランド戦略はそれぞれの組織に任せ、CMOはマーケティングのPDCA(計画、実行、評価、改善)を回せる体制を整備するのが仕事です」

「個々の組織がオートマチックに動くようになれば、CMOは必ずしも常駐する必要はありません。庭に例えると、最初に庭を作るときは庭師がいたほうがいいが、ある程度方向が定まれば、水やりは各家庭でやればいい。一緒に住んでいなくてもいい。1週間に1回ずつ回って複数の庭を管理できたら、世の中に貢献度の高い仕事ができます。CMOもシェアリングでいいのではと思ったわけです。新会社では自分の経験を生かして、様々な企業のマーケティングを支援できればと考えています」

音部大輔
  関西学院大商学部卒業後、P&Gジャパン入社。ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車などでブランドマネジャーやマーケティング組織構築などに従事。神戸大で経営学の博士号を取得。2016年、資生堂ジャパンの執行役員マーケティング本部長(CMO)。18年に独立し、クー・マーケティング・カンパニー設立。

(聞き手は安田亜紀代)

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