何百匹ものサメが狩りで狂乱 南太平洋、4年越し撮影
フランス領ポリネシアのファカラバ環礁には、毎年6月、膨大な数のマダラハタが繁殖のために集まる。そして、体長50センチほどの太ったマダラハタを狙い、オグロメジロザメも何百匹も集結するのだ。ナショナル ジオグラフィックは4年がかりの取材で、海中で繰り広げられるサメとハタのドラマを迫力ある写真でとらえ、5月号で紹介している。
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ハタの雌が環礁の産卵場で過ごすのはせいぜい数日。しかし雄たちは、普段は単独で暮らしているにもかかわらず、この危険な海域に何週間もとどまる。そして最後には、すべてのハタが一斉に卵と精子を水中に放つ。
撮影チームは、この壮観にして謎めいた繁殖行動の瞬間を4年がかりで記録してきた。合計21週間、延べ約3000時間にもわたり、水深35メートルの水路に昼夜を問わず潜った。取材1年目の2014年、海洋生物学者が魚の数を数えると、水路にはおよそ1万7000匹のハタと700匹のオグロメジロザメがいることがわかった。
ハタを追う数百匹のサメ
取材1日目の夕刻、海に潜ると、サンゴ礁の陰から甲殻類や軟体動物が姿を現す。マダラハタは皮膚を暗い色に染め、睡眠をとるためサンゴ礁の隙間に消えた。一方で生気を増したのがサメだ。夜になると、数百匹のサメが海底に群れをなすのだ。
取材チームは、サメのいる海底にとどまるしかなかった。身を守るケージも武器も持たなかったが、サメの大群に分け入るのは心躍る体験だった。そして分かったのは、オグロメジロザメは群れで狩りをするということだった。オオカミに似た行動だが、オオカミほど協力し合うわけではない。
サメは不器用で、単独では寝ぼけたハタさえ捕まえることが難しい。だが群れで狩りをすれば、ハタを隠れ場所から追い出し、包囲できる。サメたちの攻撃は、速すぎて肉眼では追えなかった。しかし、特殊なカメラで撮影した毎秒1000コマのスローモーション映像を見て、狩りは感嘆するほど効率的で正確なものかが分かったのだ。
傷を負った雄のハタは?
サメにとって、人間は障害物ではあっても獲物ではない。夜に潜水していると、サメは私たちのわずかな動きや水中ライトの光に反応して近づいてくる。あざができるほど強烈な頭突きを食らわされることもあったし、興奮したサメを静めるために、尾をつかんで裏返すこともあった。
マダラハタがファカラバ環礁に集まる数週間で、オグロメジロザメは数百匹か、あるいは数千匹のハタを貪る。傷を負った魚も多くいる。徹夜でダイビングをした翌朝、私は"サバイバー"たちを撮影した。いずれも重傷だ。
ひれは引き裂かれ、えらぶたは剥がされている。しかしそんな悲惨な状態になっても、ハタたちはひるんでなどいないように見えた。雄たちは優位に立とうと、幾度となく顔を突き合わせて挑み合い、激しく争う。彼らは生殖本能に支配されていた。2017年、ハタの雄たちのそうした行動の結末をようやく観察することができた。
(写真・文 ロラン・バレスタ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年5月号の記事を再構成]
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