亡き夫の財産、兄には渡さない 遺言寄付で贈り先選ぶ弁護士 志賀剛一

写真はイメージ=PIXTA
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Case:31 夫に先立たれましたが、子供はおらず、夫が不動産とかなりの預金や金融資産を残してくれたので、私は死ぬまで生活の不安はありません。問題は私が死んだ後です。実は、何十年も絶縁状態にある兄が1人います。このままだと私の遺産は兄に行くと聞きました。兄はすでに亡くなった両親の財産を使い果たしただけでなく、私にもお金をせびってきたことがあります。私の死後、せっかく亡き夫が築いた遺産を兄には絶対に渡したくないので、世の中の役に立つよう慈善団体に全部寄付したいと思っています。どういう方法があるでしょうか?

「遺贈」 遺言で財産を贈与

民法上、法定相続人は配偶者や子、孫などの第1順位相続人、子や孫がいない場合は父母や祖父母が第2順位相続人、そして父母や祖父母もいない場合は兄弟姉妹が第3順位相続人と規定されています。

夫に先立たれて子供もおらず、両親もすでに亡くなっていて兄が1人ということになると、その兄があなたの唯一の法定相続人となります。おっしゃるとおり、このまま何もしなければ、あなたが亡くなったときに所有していた財産はすべて兄に相続されることになります。

一番簡単な方法はあなたが今、慈善団体に全額寄付することですが、これから続く老後を考えたら不安ですよね。その場合は遺言を作成し、希望どおり慈善団体などへ全財産を「遺贈」してしまえば相続財産が兄へ行くことはありません。

遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を贈与することをいいます。一方、法定相続人に財産を移転させることは「相続」であり、この場合は遺言では通常「相続させる」と書きます。法定相続人以外に「相続させる」ことはできないので、その場合には遺贈を使うことになります。ちなみに、法定相続人にも遺贈することは可能ですが、「相続させる」と書いたほうが遺言執行の手続きは簡便です。

「死因贈与」は受け取る人の同意も必要

なお、遺贈とよく似た言葉に「死因贈与」があります。遺贈が贈与者の一方的な意思表示である単独行為であるのに対し、死因贈与は贈る人(贈与者)と贈られる人(受贈者)の双方の合意が必要な契約なので、受贈者が生前に契約内容を知ることになります。

また、遺贈は遺言に基づいて行われるため、遺贈者は民法が定めた厳格な遺言の要式に沿って作成されなければなりませんが、死因贈与の契約は口頭でも法律上は有効です。しかし、口頭では内容も不明確でトラブルが生じかねないので、必ず契約書を作成するようにしてください。なお、このコラムでは遺贈を前提に話を進めていきます。

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