部下の弱みは徹底利用 「謀略型」上司の困った習性
謀略型上司は「自分の評価、成果」しか考えない… 写真はイメージ=PIXTA
どのような人がメンバーの心を壊し、チームの生産性を下げるのか。日本のメンタルヘルス研修の草分け的存在で、多くの企業で「壊れた職場」の相談を受けてきた見波利幸氏が、その実例を「上司が壊す職場」(日経プレミアシリーズ)にまとめました。本書の一部を抜粋して紹介します。職場を壊す上司には4つのタイプがあり、ここまで3つのタイプを見てきました。今回は最後の一つ「謀略型」の上司について見ていきます。
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最も危ないタイプの上司
「営業部で複数のメンタル不調者が出ている」と相談をしてきたのは、あるメーカーの人事部からでした。
不調を訴える部員たちから話を聞くと、「自分がノルマを達成できないため、会社に迷惑をかけた」「得意先とトラブルを起こしてしまい、それが重荷になっています」といった話を口にします。
しかし、何か引っかかります。この人たちは真因を話していないに違いない――。そう感じました。
さらに詳しく話を聞いて、何が起きていたのかを探り続けました。すると浮かび上がってきたのは、営業部長、H氏の存在でした。
彼は、現場で働いていた際は辣腕(らつわん)の営業担当として知られた、いわばエリート社員です。
ただし、結果のためなら手段を選ばず、といった面もあったようです。
部員たちも、「なぜ、できない。根性がたるんでいる証拠だ」「怠けたいなら、会社を辞めてからにしてくれないか」「自分が職場のお荷物なのをわかっているのか」といった言葉をほかの部員の前で頻繁に浴びせられ、そのため次々に不調に追い込まれたようです。
H氏は成果も上々で、役員からも期待されていたため、社内では、ある種の権力者として恐れられていました。
部下は、明らかにH氏によって不調に追い込まれていたのですが、報復を恐れて本当のことを口にできなかったのかもしれません。
直接H氏と話をすることになりました。
H氏は私に対しては、大変殊勝な態度で接してきました。
「部下たちが不調になったのは、私の不徳のいたすところです。結果を出させてあげたいと、少し指導に力が入りすぎてしまったようです。これから、自分はどうすればいいのか、ぜひ教えてください」
それまで聞いていた話と、本人のキャラクターの違いに少しの戸惑いを覚えましたが、カウンセリングでは、いろいろ話をしてくれ、私の言葉にも真剣な表情で耳を傾けます。今後どうすべきかをしっかり考えているような態度を示します。その様子を見て、私は思いました。
この人は、最も危ないタイプの上司ではないのか――。