ディオール、メークかアートか 革新と創造の歴史展
パルファン・クリスチャン・ディオールが東京・表参道で、ディオールのメークの創造性の歴史をひもとく展覧会「ディオール アート オブ カラー展」を開催している(4月21日まで)。50年前から現在までの広告・雑誌の写真や映像を通じて、ブランドの創造性を発信する趣向。現ディオールのメークアップクリエーティブ&イメージディレクター、ピーター・フィリップス氏に、展覧会の狙いを聞いた。
――斬新なメークや表現手法を用いた写真が印象的です。展覧会で伝えたいことは何でしょう。
「展覧会では過去ディオールのメークのクリエーターを務めた、セルジュ・ルタンス氏、ティエン氏と私の3人の作品を紹介している。洗練された広告や雑誌の写真のほとんどは、すぐに忘れ去られてしまうことが多い。とはいえ芸術作品と呼べる質の高い作品だけに、1シーズン露出するだけではもったいないと思った。メゾンが取り組んできた美の歴史の中で、大胆さやクリエーティビティーがどう発揮されてきたのか、ということを展覧会で伝えたかった」
「会場は赤やグリーンなど12色別に作品を紹介している。音響にもこだわった昔の映像もある。アナログ手法で作られたものでありながら、メークの感触が分かり、手を伸ばせば映像の中のモデルに届くかのような、リアルさがある。音楽との調和も面白く、私もとても好きな作品だ。」
――展覧会の基である、メークの広告写真などを収めた書籍『アート オブ カラー』はどのような構成ですか。
「12の色別に章を立てて作品を紹介したものだ。見開きでは右にはメーク作品、左にはピカソの絵といった芸術作品が飛び込んでくる構成がユニーク。絵画で用いられた陰影とメークが同じ視点であったり、彫刻と肌の質感が似通っていたりと、メークと芸術作品を並べて掲載することで、ゲーム感覚で共通性を発見してもらおうとの意図がある。著名な芸術作品との類似性に驚くことだろう」
――50年前の作品もあります。先人2人の仕事から何を感じましたか。
「書籍の編集には2年を費やした。その過程で、偉大な2人のクリエーターの大胆な色づかいや表現の独自性を再発見した。美容の世界は巨大市場になりすぎて、数字ばかりを追い求める。ブランドはマーケティングの渦の中にたくさんのことを見失っている。すべてのルーツは創造性、大胆さにあることを忘れてはならない」
「書籍の表紙に選んだルタンスの作品は1968年のもの。50年という時を超えてなお、現代性があることが一目で分かる。これはルタンスがクリエーターになった初年度の作品だが、これが、その後のブランドの創造性の起点であると考えている」
――メークに対する消費者ニーズの変化をどうとらえていますか。
「昔はある色がはやるとみなが一斉に同じ色のリップやアイメークをした。ところがいまは選択肢が広がり、ルールに縛られない。ナチュラルにみせてもいいし、激しいメイクも批判されない。だから、クリエーターに要求されるのは、常に、『提案』という姿勢でいることなのだ。私は常に女性に敬意を払っている。女性のためのいい聞き手になって、美しさを最大限発揮できる製品を作りたい。そして、成功の根幹にあるのは創造性なのだと確信している」
(聞き手は編集委員 松本和佳)
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