働き方を変えろと言われても変えられない……そんな人たちが働き方改革の障壁となる企業が多く見られます。自分の置かれた環境をポジティブに受け止め、働き方を変えていくにはどうすればいいのでしょうか。前回の「『頑張れ精神』は日本の毒 ドラッカー流は知的に休む」に引き続き、米クレアモント大学ピーター・F・ドラッカー経営大学院准教授(ドラッカースクール)のジェレミー・ハンターさんにお聞きしました。
悪いことにフォーカスし過ぎるのは良くない
白河桃子さん(以下、敬称略) 前回のお話で、ナレッジワーカーとして働いている人に対しては、まず自分を知ること。これはつまり、自分の思考のクセを知るということですね。怒りっぽいとか悲観的だとか。それを知った上で、他人よりまず自分をマネージする技術が必要だと。
ジェレミー・ハンターさん(以下、敬称略) 思考のクセを知ることは、とても重要です。ある会社の社長に、「日本のいいところは何ですか?」と聞いたら、長い時間考えた末に「何もない」という答えが返ってきたことがありました。しかし、何もいいことがないのはあり得ない。なぜそんな風に思うのかと言えば、うまくいかないことばかりにフォーカスしているからです。視野を広く持てば、いいことがたくさんあるはずなのに、それが見えないままになっている。
現実を見るにするにはどうすればいいか。それが、私が共同代表を務める会社で取り組んでいることです。ナレッジワーカーの思い込みは何か。自分が他者や物事に対して勝手にしている期待は何か。どんな判断・批判をしているのか。それらに意識を向けることで新たな気づきを得て、新たな選択肢から結果を変えることを学ぶためのセミナーやワークショップを開催しています。
20世紀において重要な教育は読み、書き、そろばんでした。これは知識、もしくは情報に関する学びです。21世紀はすべてが変化します。この変化にどう適応するか。そのためには自分が何を思い込んでいて、どんなバイアスを持って、どうジャッジメントしているのか。それをまず知ることが肝心です。知った上で適応すること。これが21世紀を生きる基本スキルになります。適応できないと、変化を恐れるようになってしまう。
チェンジとトランジションは違う
白河 以前、セミナーで「チェンジ」と「トランジション」は違うと説明されていました。その違いを教えてください。
ハンター チェンジは自分の外側で起きる変化のことです。昇進した、会社が買収された、結婚した、子どもができた。これらが、いわゆるチェンジです。一方で、トランジションは自分の内側(内面)で起こることです。変化が起きているプロセスのなかで、自分のアイデンティティーや価値観に向き合い、変化に適応しながら、自分自身の考え方や行動が変わっていくことです。ウィリアム・ブリッジズ氏が提唱した「トランジション理論」では、トランジションには(1)何かが終わるフェーズ(2)ニュートラルゾーン(ミドルゾーン)(3)新たに何かが始まるフェーズの3段階があると述べています。
私は40数年間、自分のことばかり考えて生きてきましたが、子どもが生まれ、父親となり、息子のことも考えなくてはいけなくなった。それが私にとっての、大きなトランジションでした。わかりやすく言うなら、自分にとって何が大事か、が変わってきたということ。それにより、身につけなくてはならないスキルも私自身のアイデンティティーも変わりました。
多くの人が悩んでいるのは「なじみのある世界」が終わったのに、その現実を受け入れられないでいるからでしょう。ある意味では、世界中が今、この変わりきれないミドルゾーンにいる。古い世界は終わった、しかし、まだ新しい世界へも行けない。もしくは、古い世界が終わったことを受け入れていないか、気づいていないがモヤモヤやストレス状態がずっと続いている。ルールも整備されておらず、無秩序で、自分が何者かもわからなくなってしまった。結果、何を大事にして、どう進んでいけばいいのかもわからない状態にある人は多いと思います。