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イタリア仕込みの技術と知識 古澤氏が伝える日常料理 ガストロノミー最前線(4)

2018/5/8

ちがさき牛のラグーパッパルデッレ

レストランばかりがガストロノミーの舞台ではない。料理を作るという行為が社会の中でどう機能すべきかを考えた時、いろんな可能性が見えてくる。「オルトレヴィーノ」(神奈川県鎌倉市)古澤一記さんの選択はそのひとつの答えだ。

料理人が出す店はレストラン――そう思い込んでいたかもしれない。古澤さんがイタリアから帰国して開いたのがワインと総菜の店と聞いた時、不意をつかれた気分になった。テークアウトとイートインができるイタリア版デリカテッセン。現地で「エノ・ガストロノミア」と呼ばれる業態である。

古澤さんはイタリアで10年間修業した。トスカーナ、サルデーニャ、エミリア=ロマーニャ、プーリアのレストランやトラットリアで料理を学ぶ傍ら、ワインの勉強にもいそしんだ。フィレンツェの名店「エノテカ・ピンキオーリ」ではソムリエを務め、最後の2年間はワイナリーに入って栽培と醸造を経験した。

この経歴を持ってすれば、どんな高級なリストランテのシェフになってもおかしくない。が、古澤さんは、イタリアで習得した知識と高度な技術を、非日常ではなく日常的なシチュエーションで提供したいと考えた。人々の生活の中へ、家の中へ入っていける形にと模索した答えがエノ・ガストロノミアなのである。

セラーには自らセレクトしたワインが400種ほど並ぶ。ソムリエでもあり、ワイン造りも経験した古澤さんにとって、ワインは料理のイマジネーションをかきたててくれる大切な存在。手前の器はアンテーク・コーディネーターである妻の千恵さんがイタリアで入手した品

■時間をかけて味をのせる

作るのは伝統料理だ。修業先のおばあちゃんやマンマから教わったレシピも少なくない。

修業先で地元の人々に溶け込んで、共に働きながら感じたのは、昔の料理が変わらずに作られ、守られている事実だった。「食べ続けてきたものの愛し方が濃くて深い」と古澤さん。野菜の煮込みにせよ、キノコのグリルにせよ、季節になれば必ず作る。それも昔ながらのやり方で。

「作り方の根底にあるのは、“時間をかけて味をのせていく”感覚です」

<料理解説>
ちがさき牛のラグーパッパルデッレ 2350円。ハーブ、スパイス、香味野菜、赤ワイン、塩コショウをマリネした塊の牛スネ肉をトマト、ワイン、その他の野菜と共に5時間ほど煮込む。自然に煮崩れて、幅広の手打ちパスタにしっかり絡む。古澤さんの料理は日本人のDNAにはない独特の風味をたたえて、日常的でありながら異国の文化であることを突き付けてくる

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