通称チャーシューメロンパンの「ベイクドチャーシューパオ」 見かけは菓子パンのメロンパンだが、中身は甘辛い濃厚なのあん

日本出店に当たっては「味も店の雰囲気も日本人好みにローカライズすることなく、すべて本場を再現している」(大林さん)とのことで、もちろん日比谷店でもすべて厨房で手作りする姿勢は変わらない。オーダーも香港式に、客が伝票に頼みたい数を記入して渡すスタイルだ。

さて、こちらで提供されるメニューはすべてマックシェフとレウンシェフのオリジナルレシピによるもの。看板メニューはもちろん、チャーシューメロンパン。正式な名前は「ベイクドチャーシューパオ」という。店に来た人が必ず注文する一品だとか。

さっそくいただいてみよう。メロンパンよりふたまわりくらい小さめ、でも、表面の感じはまぎれもなくメロンパン。「香りにこだわりました」とマックシェフが語るように、最初にふわっと甘い匂いが香り立つ(でも、メロンパンの香りとはちょっと違う)。割ってみると、トロトロのあんの中にゴロゴロとしたチャーシューがぎっしり入っている。

口に入れるサクッとした食感、その次に甘いクッキー生地がホロホロと口の中に広がって、次にあんのしっかりした甘辛い味が来る。この甘辛あんと甘い皮が混ざり合うと、これが絶妙にマッチしてとてもうまい。

大林さんによれば「点心でオーブンを使う料理は非常に珍しい」とのこと。たしかに点心といえば「蒸す」が中心で、セイロで提供されるものが多い。

レウンシェフによると「これは元の勤務先のフォーシーズンズホテルの『龍景軒』でも出していた人気のメニューです。ただ、フォーシーズンズではイスラムの外国人のお客さまも想定して、あんは牛肉とガチョウを使っていました。自分の店ではよりおいしい豚のチャーシューにしています。香港では1日に1店で1000個売れる人気メニューですよ」とのこと。

ダイコンのザクザクとした食感が魅力の大根餅 米国で人気の「シラチャーソース」で食べるのがお薦め

人気メニューの1つ、大根餅もこれまた絶品であった。点心の定番メニューで、一般的には刻んだダイコンを上新粉や浮き粉などで練り上げて中華ハムなど入れて蒸してから焼く。こちらは干しエビが入っていることと、ダイコンを大きく切ることでザクザクとした食感を残しているのが特徴だ。

大根餅は酢じょうゆや辛子じょうゆで食べることが多いと記憶しているが、こちらは「シラチャーソース」という米国で大人気のチリソースをつけていただく。ダイコンの甘さがより引き立ち、その中にも魚貝の香りがほんのり感じられて、とてもおいしかった。

エビの形がきちんと残ったまま入っているエビ蒸しギョーザ エビはプリプリとしていて、エビそのもののおいしさが味わえる

エビの蒸しギョーザは透き通る皮から見えるエビが美しい芸術的な一品。包丁で叩いたエビが入っているのかと思ったら、エビの形がきちんと残ったまま入っていた。そのためエビはプリプリとしていて、エビそのもののおいしさが味わえた。皮のつるんとした食感とも合う。

「発酵具合に苦労した」と両シェフが語るマーライコウもおススメ料理の1つ。これは卵ときび砂糖と小麦粉でつくる素朴な味の中華風蒸しケーキである。あまり甘すぎず、卵そのもののおいしさがガッツリと伝わってくる、甘いものがそれほど好きではない私もおいしくいただいた。手でちぎるとホロホロと崩れるこのふんわり感、シンプルに見えるけど、作るのは難しいんだろうなぁ。

おススメ料理の1つ、マーライコウ 卵ときび砂糖と小麦粉でつくる素朴な味の中華風蒸しケーキ

全体を通して感じたのは「点心って食感がこんなに多彩だったっけ?」ということ。サクサクとかトロトロとかザクザクとかプリプリとか、「この記事、いつになくオノマトペ(擬音語や擬態語)が多くない?」と思っていたら、どうやら料理のせいだったようだ。

もちろん、味も香りも申し分なく、バラエティー豊かな点心の奥深さを堪能したのだった。

そうそう、先に「味も店の雰囲気も現地のまま。日本に合わせてローカライズしない」と紹介したが、1つだけ現地と変えた点がある。香港や台湾では点心の店にはアルコールがない。しかし、日比谷店ではビールなどのアルコール類とともに点心が楽しめる。この決断には大いに拍手を送りたい。

映画館や劇場も多い日比谷、点心は観劇や映画鑑賞の前後に軽く小腹を満たすのにもピッタリだ。ただし、この行列に並んでいたら映画に遅刻してしまうこと必至なのだが。

(ライター 柏木珠希)