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畑耕しチーズ・生ハム 笹森シェフが弘前を選んだ理由 ガストロノミー最前線(3)

2018/5/1

笹森通彰(ささもり・みちあき):青森県弘前市生まれ。仙台、東京で計6年修業した後、2001年渡伊。ヴェネト、トスカーナ、シチリアなど計2年半働き、03年帰国。同年8月、現在の店をオープン。国内外から多数の客が訪れる

 現地の食文化をまるごと映し出そうとする笹森さんの生き方を見て、ふと思う。東京の店々で提供されてきたのは、つまり、部分的に切り取られたイタリア料理ということ?

「東京では食材からのスタートですよね。ここでは、食材になるはるか前まで遡ってスタートできる。野菜は種をまくところから。ワインはブドウから。肉は生きているうちから」

「ダ・サスィーノ」のスペシャリテに馬肉のTボーンステーキがある。懇意にする生産者から馬を一頭買いして、骨付きで熟成させて使う。「生産者との距離が近いから、小柄の馬で、といった希望も聞いてもらえる。肩肉などはラグーやレトルトカレーに、脂は溶かしてコンフィにと、一頭を使い切らねばならない苦労はあるけど、その分、技の幅が広がって、調理の伸びしろも大きいと思う」

開業から2年後の2005年、ワイン用のブドウ栽培を開始。自宅の実験畑に11品種を植え、津軽の気候風土に合う種を見極めた。昨年、新しく畑を入手し、本格栽培に突入した。遠くに見えるのが岩木山

■東京より明るい未来

 とはいえ、「やりすぎはいかんと思うこの頃。身体がたりなくなってきた」。今後はワインにエネルギーを集中させるつもりという。2014年、新しく1ヘクタールの畑を買って、1300本の苗を植え、今年500本を植え増した。自宅の一部を改造した小さな醸造部屋で、90リットルの寸胴鍋をステンレスタンク代わりに仕込む。コルクを1本1本手打ちし、ラベルはのりで貼るガレージワイナリー。「料理は一瞬の命だけど、ワインは残る。畑は次の世代が継げばいい」

 時流が激しい東京で店を長く続けるのは至難の業だ。でも、ここでができる。大地に根を張れば、ゆっくりと長く続く。

 料理を出す。作物を作る。両輪で走るから描けるヴィジョンがそこにある。笹森さんは「“地方は不利”を逆手に取った」という。確かに、東京より明るい未来が続きそうな気がする。

青森県・弘前 オステリア エノテカ ダ・サスィーノ
青森県弘前市本町56-8
Tel 0172-33-8299
18:00~21:00LO
日曜、月曜休
おまかせコース 10004円~(税サ込み)

文=君島佐和子 写真=加藤純平

君島佐和子(きみじま・さわこ)
「料理通信」編集主幹。「Eating with Creativity」をキャッチフレーズに、食の世界の最新動向を幅広い領域からすくいあげている。

[日経回廊4 2015年10月発行号の記事を再構成]

前回掲載「理系脳で五感に訴える料理空間づくり 米田肇氏の挑戦」もあわせてお読みください。

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