法施行から2年 女性活躍「見える化」進むも残る課題
企業価値向上へ展望示せ 有識者2人に聞く
女性活躍推進法の施行から2年。取り組む企業の裾野は広がったが、リーダー育成など課題は多い。さらに進めるには何が必要か。青山学院大学大学院の北川哲雄教授と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子共生社会部長に聞いた。(本文敬称略)
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――女性活躍推進法の効果と課題をどう見ますか。
矢島 企業が実績データを公表するようになり、女性活躍の実態を見える化した意義は大きい。この数年は学生に有利な「売り手市場」が続き、採用を意識した取り組み強化もあった。課題は女性管理職を増やすという点にフォーカスしすぎたこと。育児などで時間制約のある女性が、真に活躍できる環境づくりは十分でなかったと思う。
北川 年限を決めるなど企業が計画的に取り組みを進めるようになった効果は大きい。ダイバーシティ(人材の多様性)に対する認識も浸透した。ただ自社は何を目指し、どう企業価値向上につなげるかまで考え抜いて戦略を立てた企業はどれだけあるか。官の旗振りの下、「やらされ感」での取り組みが依然少なくないと感じる。
矢島 同感だ。ただ流れに乗って女性管理職を増やそうとしても効果は期待できない。
公平さカギ、人材ロス防げ
――企業間の取り組みには温度差も目立ちます。
北川 組織変革には抵抗がつきもの。経営者は将来の企業価値向上に必ずつながると宣言し、トップダウンで進めるしかない。優秀な人材をフェアに評価し、少数派である女性を登用するなら、支えて育てる仕組みまでつくること。オープンかつフェアに進めることが重要だ。
矢島 フェアな評価は女性活躍の推進にとても重要だ。その意味で現状の短時間勤務者への評価の仕方は疑問を感じる。本来はフルタイムと違う形で目標設定をし、時間でなく生産性で評価すべきだ。そうすれば、育児などで時間に制約がある女性が自信を持って働ける。将来管理職を目指したい人も多く出てくるだろう。短時間勤務を経験してもキャリアの見通しが立つことが必要だ。
北川 育児や介護で時間制約のある人は、ますます増えていく。成果さえ上げれば、働き方を問わず評価する仕組みがないと、企業は競争力を保てない。欧米企業はナチュラルかつ柔軟に多様な人材を活用している。硬直的な人事制度は見直し、時間制約を理由にした人材ロスを防ぐ仕組みを模索すべきだろう。
矢島 いまだに多くの管理職が持つ「バリバリ働ける男性を部下に持ちたい」との意識を変える必要がある。一時的に時間制約が生じても、経験やスキルのある人には働き続けて成果を出してもらう。それができなければ必要な人材を確保できないと認識する必要がある。
――数値目標に労働時間短縮を掲げる企業もありますが、長時間労働は、なかなか変わりません。
矢島 働き方改革は広がっているが、ノー残業デーや有給休暇の計画取得など画一的な取り組みが目立つ。労働時間の削減だけでなく、業務内容、仕事の進め方、組織のあり方を変えていく取り組みに発展させる必要がある。
北川 IT(情報技術)が進化し、どこにいても働ける環境やインフラは整いつつある。柔軟な働き方を認める企業が増えれば、育児中の女性は力を発揮しやすくなるはずだ。
時短勤務評価は生産性で
――女性の活躍を加速させるには何が必要でしょうか。
矢島 働き方改革とダイバーシティを連動して進めること。多様な働き方をする人が組織でキャリアを積んでいこうとすると、従来型の働き方や型にはまったキャリア形成に固執した人事制度がネックになる。評価の仕方を含め制度全体を見直すべきだ。
北川 投資の世界では、ESG(環境・社会・企業統治)の観点から企業の成長性や価値を測ろうという動きが強まっている。ダイバーシティは企業価値を左右する重要な要素。単に目標を設定しクリアすればいいといった甘いものではない。長期的な企業価値向上に必要であり、本気でやらないと大きなリスクになると企業は認識すべきだ。
――変化の時代、働き手に求められることは。
北川 「5年で1つのスキルを習得」などターゲットを決め、自らキャリアを切り開いていくこと。人生100年時代は働く期間も長くなる。常に学び続ける姿勢が大切だ。
矢島 夫婦で互いのキャリアを話し合える関係性をつくっておくことも大事。女性は夫のキャリアを優先して考えがちだが、自身の頑張りどきに、夫にさらに家事・育児にコミットしてもらう必要が出てくる。同時に柔軟な思考を持ちたい。妊娠、子育て、親の介護のタイミングなど予期できないことは多い。想定外を受け入れ、新たな条件下で前向きにキャリアを展望するしなやかさが大切だ。
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計画策定届け出99.7%
[日本経済新聞朝刊2018年4月16日付]
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