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「地方経済の活性化のためには地域の中核企業向けの投融資を活発化しなければならない。そのために公的金融が果たす役割は否定できないが、官だけに頼らずとも、民間でも対応可能だ」中小企業を取引先とする政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)で組織ぐるみの不正融資が発覚した。国の制度融資である「危機対応融資」で、本来は融資対象とならない企業の財務内容を改ざんするなどして無理やり融資を行っていたのだ。
商工中金の不正は論外だが、地方経済の活性化のためには地域の中核企業向けの投融資を活発化しなければならない。そのために公的金融が果たす役割は否定できないであろう。しかしながら、それは官だけに頼らずとも、民間でも対応可能だと筆者は考える。
■銀行の創意を促し、企業の成長を後押し
地域金融機関を監督する金融庁は17年12月15日、新しい検査・監督の指針として「金融検査・監督の考え方と進め方」を公表した。主眼はこれまでのように画一的な検査・監督を脱し、銀行の創意工夫を促して企業の成長を後押しする持続可能なビジネスを構築することである。その柱として18年度末に金融検査マニュアルが廃止されるという。
金融検査マニュアルは1999年、バブル崩壊で不良債権が膨れあがっていた銀行の資産状況を検査するために導入された。とりわけ、2002年に竹中平蔵金融担当相(当時)が不良債権問題解決を主題とする「金融再生プログラム」を公表。銀行による資産の査定を厳格化し、金融庁が定める査定基準と一致させるように促した。
マニュアルは厳格な基準に基づいて融資先を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」の区分に分類し、その融資が担保や保証でカバーされていない限り、原則として「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」については開示債権(不良債権)にすることを求めた。
融資先の区分は債務超過か、赤字かなど、いわば融資先の決算結果に基づいて機械的に判断するものだ。しかし、企業の価値は過去の数値だけで測れるものではない。代表例が新規ビジネスの立ち上げだ。ベンチャー企業は数年間赤字が継続しても先行投資をして将来のキャッシュフローを生み出す努力をする。
■融資で財務や担保にとらわれない
それは老舗企業が時代の流れに合わせて新規ビジネスを手掛け、業態転換を図る場合でも同じことだ。そういう場合に、金融機関が「お宅は要管理先なので担保がなければ貸せません」などというようでは、あまりにしゃくし定規の対応であろう。企業の成長をサポートする金融機関本来の仲介機能が健全に機能しているとはいいがたい。
金融庁は金融検査マニュアルの廃止とともに、この点を改善すべく、「事業性評価」に基づく融資を促進しようとしている。
事業性評価に基づく融資とは、ひと言でいえば、財務内容や担保にとらわれることなく、事業の成長性を適切に評価して融資を行うことである。しかしながら、かつての金融機関は、目先の損益や財務状況だけでなく、事業の環境や将来性を冷静に判断して融資を実行していた。筆者が驚くのは金融マンとしてごく当たり前のことが、わざわざ金融庁によって指導されなければいけないのかという現状だ。非常時であったとはいえ、過去20年前後の金融行政の弊害がこのような形で表面化しているわけだ。
■リスクを取る文化が根付いていない
金融庁の考えは正しい。しかしながら、どんなに金融庁が号令をかけたとしても、金融機関が急に変わるわけではないだろう。日本にはリスクを取るという文化が根付いていないためだ。このため、金融機関をサポートする第三者が重要となる。
その点で、金融庁の姿勢にはやや不満が残る。例えば、金融庁は「金融検査・監督の考え方と進め方」において、地域金融機関を手助けする存在として、政府系の地域経済活性化支援機構(REVIC)や日本人材機構、ゆうちょ銀行を挙げた。しかしながら、企業の事業再生を手掛ける民間のプライベート・エクイティ(PE)ファンドやコンサルティング会社には言及がなかった。政府系だけで仕事をやろうとする姿勢が見え隠れし、それこそが商工中金の不正の温床になったのではないか。
■民間のPEファンドにできることは多い
民間のPEファンドを運営する立場でいわせてもらえば、地域金融機関との連携でできることはたくさんある。民間のPEファンドは、銀行融資に弁済順位において劣後する資本性の資金(株式など)を提供する。もちろん、無担保・無保証だ。だからこそ、自ら企業の経営に踏み込んでリスクを取り、改善を行うのが特徴だ。
銀行が株式保有できない状態(それは優越的地位乱用の防止のためにも、銀行経営の健全性確保のためにもある意味当然である)であるなら、銀行が本来の事業性評価を実践することは困難であるといわざるを得ない。金融庁にはこうした視点が欠けているのではないか。
折しも、地域の特性を生かした産業の集積を支援する「地域未来投資促進法」が17年施行された。各種の規制緩和や税制優遇措置のほか、専門家による経営へのアドバイスなど多様なメニューが用意されている。我々にできることは少なくないと自負している。
安東泰志
1981年に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、88年より、同行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。
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