完全無線イヤホン先駆者 EARIN新機種の進化と変化
「年の差30」最新AV機器探訪
完全ワイヤレスイヤホンの先駆者ともいえるEARIN(イヤーイン)が、2018年2月、新製品「EARIN M-2」を発売した。前モデル「EARIN M-1」から2年たって登場した新モデルはどんな進化を遂げたのか。昭和生まれのオーディオ評論家と平成生まれのライター、約30歳の年齢差がある2人が、M-1とM-2、両モデルを試聴した。
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2017年末から大手オーディオメーカーが続々と新作を発表し、選択肢が増えている完全ワイヤレスイヤホン。調査会社のGfKジャパンのアナリスト合井隆人さんも、「ヘッドホン・イヤホンの市場全体の本数規模は安定している中で、Bluetoothイヤホン、特に完全ワイヤレスイヤホンのプラス成長を見込む」と話す。
そんな完全ワイヤレスイヤホンで、先駆者ともいえるのが、2013年、スウェーデンで元ソニー・エリクソンのエンジニア3人が立ち上げたメーカー「EARIN」(イヤーイン)。クラウドファンディングのKickstarter(キックスターター)でEARIN M-1を発表すると、150万ドルという当時の北欧企業としては最大投資額を集め注目された。
M-1が発売されたのは2015年12月。完全ワイヤレスイヤホンが一般的にも注目を集めるきっかけになったAppleの「AirPods」が2016年12月発売なので、1年早く発売されたことになるが、当時からバランスのとれた聞き取りやすい音質、片耳3.6グラムの超軽量・超小型、安定感のある接続性など、評価が高い製品だった。
そのM-1の後継機となるだけに、発売前から高い注目を集めてきた「EARIN M-2」。どんな進化を遂げたのか。
M-1に比べて音作りに個性が
小沼(26歳のライター) これまでこの連載ではさまざまなヘッドホン、イヤホンを試聴してきましたが、今回取り上げるのはEARINの新モデルM-2。何が変わったかを確認するために、前モデルM-1も試聴しました。
小原(54歳のオーディオ・ビジュアル評論家) 新モデルのM-2、使ってみていかがでしたか?
小沼 これまで聴いてきた完全ワイヤレスイヤホンの中では、音も使いやすさもナンバーワンだと思いました。前作のM-1もかなり音が良いと思いましたが、M-2はさらにパワーアップして、音のバランスも取れていると思います。
小原 なるほど。でも、僕の感想はちょっと違いますね。
小原 M-1のほうがバランスが良くプレーンで、M-2はいい意味で作為的な音だと思いました。具体的にいうと、低音が強めで、ボーカルが前に張り出している音。積極的に冒険していると思いましたね。
小沼 そうなんですか。最近はフレンズの「ベッドサイドミュージックep」など、歌モノをよく聴いていたので、バランス良く感じたのかもしれません。
小原 EARINにとって最初の製品だったM-1では安全パイを狙ったけれど、M-2では意識的にキャラ付けをしたんじゃないかと思いましたね。
小沼 M-1は在庫がなくなり次第、販売終了とのこと。音の個性に違いがあるなら、少し残念な気もしますね。ただ、どちらも細かな音まで聴き取ることができるのは良かったです。「こんな音が入ってたんだ!」という気づきがたくさんあるので、何度も聴いていた曲でも改めて聴き返したくなります。
小原 それはそうかもしれない。細かな音の描写力は、EARINの特徴と言えますね。
小型の本体にたくさんの機能を搭載
小沼 デザインや使い勝手はどうでしょう。18年3月に行われた製品発表会で、開発者のペア・センストローム氏に、他社の完全ワイヤレスイヤホンと比較したとき、M-2の強みは何かと聞いたところ、「とにかく小型であること。その中にたくさんの機能が詰まっていること」という答えが返ってきました。たしかに片耳3.6グラムの軽くて小さな本体に、タッチセンサー、外音取り込み機能など、様々な機能が搭載されているのはすごいと感じました。
小原 M-1と比較しても、使い勝手ははるかに良いですよね。途切れにくさやペアリングのしやすさもそうですし、ケースへの収納もマグネット式になり、よりスムーズになった。デザインもさらに洗練され、考えられていると感じます。
小沼 左右のイヤホンをBluetoothではなく、NFMIという補聴器などにも使われている技術で接続することで、安定した接続性を実現しているそうです。また、これはM-1も同様ですが、ケースが円筒形でスリムなので、ポケットに入れても邪魔にならないのはうれしいところですね。
聴く音楽に音が合うか
小原 M-2の価格は3万2180円(税込み)だから、これまで試聴してきた完全ワイヤレスイヤホンと比べても少し高めですね。価格も考慮した上で、20代の小沼さんはM-2をどう評価しますか。
小沼 僕は魅力的だと思います。確かに高価ですが、これまでの完全ワイヤレスで良いと思った機能の多くが搭載されていて、この充実度を思うと納得できる買い物ではないでしょうか。音づくりも好みですし。
小原 音に関しては、僕はM-1派ですね。さっきも話した通り、M-2は2作目ということもあってか、音づくりが僕がよく聴いているジャズやクラシックにはおせっかいのように感じてしまう。M-1のようにプレーンで、音源に忠実に聴かせてくれる方が好きです。
小沼 聴く音楽によって評価が変わるのもおもしろいですね。
小原 使い勝手やデザインはM-2に軍配を上げますよ。聴いている音楽に音づくりがうまくマッチすればM-2は魅力的だと思います。
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この連載では、2018年に入ってから、今回のEARIN以前にも、ソニー、BOSE(記事「完全無線イヤホン対決 音質はBOSE、機能はソニー」)、JBL(記事「JBL初の完全無線イヤホン 音質高評価、難点は音切れ」)の完全ワイヤレスイヤホンを試聴してきた。次回「完全無線イヤホン 音質か操作性か、世代で違うベスト」では、ここにAppleの「AirPods」を加え、実際に使ってみて見えてきた完全ワイヤレスイヤホンの長所と短所、そして6機種のなかから世代の違う2人が何を買うかについて話し合う。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持。現在メインで使っているイヤホンは「FitEar Air2」(須山補聴器)。最近のヘビーローテーションは『シェイプ・オブ・ウォーター(オリジナル・サウンドトラック)』。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。最近のヘビーローテーションは『Geography』(トム・ミッシュ)。
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