大地と芽吹きのパワー 東北の温泉は春が旬
キレイになれる温泉の秘密
東北の春はこれからが本番。冬期休業していた山の温泉宿もいよいよ4月下旬から今年の営業が始まります。
人間の体にも四季があります。体が不要なものを排出し、必要なものを取り入れようとするのがこの季節。大地から湧き上がる温泉と、まばゆい芽吹きの新緑がパワーチャージにぴったりな春の東北を訪ねました。
青森県の八甲田と奥入瀬の間に位置する蔦(つた)温泉。ブナの森が抱き込んだ豊かな水が温泉となって湧いています。一軒宿の蔦温泉旅館は、こんこんと湯が湧く岩盤の上に板を配し、そのまま湯船になっています。湧き上がる温泉は大きな湯玉となって、どどんどどんとまるで地響きのように水面を揺らします。
大量に湧き出る温泉は、かけ流しどころか、まさに湧きっぱなし。熱めの湯がとめどなく湯船からあふれ出ます。この温泉への青森流の入り方は、少し温まったら温泉が流れる木の床にごろんと横になり、また入るというもの。湯の流れる音だけが響く静かな湯殿で横になると、背中から感じる大地の力に心を揺さぶられます。
温泉の泉質は、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉。肌をしっとり保湿する硫酸塩泉、古い角質を落としてすべすべ肌になれる炭酸水素塩泉、体の芯まで温めて発汗を促進する塩化物泉の三位一体です。源泉の温度は45度から47度で、入るときはちょっと熱いと感じますが、たくさんかけ湯をしているうちに体になじみ、どぼんとつかれば、じわーっと染み入るような温泉の力に魅了されます。
旅情緒を感じる建物もすてきです。磨かれた古い廊下の横の休憩室ではWi-Fiがスイスイ使えたり、部屋の広縁にもデスクがあったりするので、ちょっと仕事を片付けることもでき、長期の逗留(とうりゅう)も問題ありません。一人旅にもいい本館の和室や、新緑を眺める西館の客室、ベッドルームとリビングがあるちょっと優雅な特別室などが選べるのもうれしい。レトロな雰囲気を生かしつつ、それぞれすてきに改装されています。
山菜や山の恵みを中心に、しみじみと温泉の夜を楽しむ夕食。青森の地酒「豊盃」などをちょっとたしなみ、心の栄養も補給します。
十和田湖産のヒメマスの塩焼きはふっくらふわふわ。目にも楽しい演出で登場します。鍋は、鳥のだしが効いた八戸名物のせんべい汁。青森の味を満喫します。
朝食はライブキッチン型のビュッフェ。青森の朝食に欠かせない貝焼きは、イカや貝をホタテの貝殻を使って卵とじにしたもの。せいろで蒸した温野菜や、生野菜、リンゴなどでビタミン・ミネラル・酵素・食物繊維もバランスよく取れます。
宿の敷地からスニーカーで気軽に行ける森の中の遊歩道で朝の散歩。新緑のパワーが降り注ぐ小道を15分ほど行くと、神秘的な蔦沼へ到着です。特に芽吹きの季節は、木々はすごい勢いで大地から水を吸い上げ、葉っぱの先から放出します。光合成も活発で、目には見えないけれど新緑の森には癒やしのミストと酸素があふれているのです。
木道の縁を見ると、ふわふわのコケがびっしり。近寄って観察すると、コケも芽吹きの季節。たくさんの芽が伸びて、ミクロの森がここにもあることに感激します。
温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト。日本の温泉・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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