旭川も春本番 シマフクロウに待望のヒナ

4月も半ばを過ぎました。4月は皆さんを取り巻く環境が大きく変わる、変える、まさに新年度ですね。北海道では一気に雪解けが進み、モノトーンだった景色に鮮やかな緑が芽生え、桃色や赤や黄色の花が咲き、南で越冬していた鳥たちが繁殖のために戻ってきてさえずり…、と命がいっせいに目を覚まします。

旭山動物園では待望のシマフクロウの雛(ひな)がかえりました。春一番のとてつもなくうれしいできごとです。抱卵から巣箱内の様子を映像で一般公開してきたのですが、今は残念ながら閉園期間。ライブではなくてもSNS(交流サイト)で発信しよう!と準備を始めました。もちろん雛が順調に育つとは限りませんが、そんな事態も含めて命の営みを伝えていきたいと考えています。

北海道に生息するシマフクロウは世界最大級のフクロウ。樹洞(木の穴)ではモコ(メス)が子育て中で、ロロ(オス)はエサを運ぶ (桜井省司撮影、提供:株式会社LEGION)

命を宿した物質の循環

さて、前回生きることは食べること、食べることは命を奪うことと書きましたが、これが生態系ピラミッドとか食物連鎖という言葉で表されたりします。皆さんも習った覚えがあるのではないでしょうか。

たとえばチゴハヤブサが死にハエがわき、ハエをスズメなどの小鳥が食べ雛を育て、スズメなどの小鳥をチゴハヤブサが食べ雛を育て、チゴハヤブサが死にハエがわき…と巡っています。

命を宿した物質の循環ですが、生態系の中ではそこから物質が常に持ち出され続けるということはなく、すべてが輪になって循環しています。

私たち人間では、生きることは働くこと、働くことはお金を得ることですね。お金を介した経済循環の中で疑似的な生態系をつくり上げました。人の中では様々な課題もありますが循環する仕組みをつくり上げました。でもその循環の礎となる大地や海から資源を奪うだけ奪って何もかえしてこなかった、つまり循環させてきませんでした。例えば北海道ではエゾシカを毎年10万頭以上駆除していますが、10万×数十キロの物質を自然から持ち出し続けているとの見方もできます。

増え過ぎ害獣となってしまったエゾシカ。 農林業被害が増大し毎年10万頭以上駆除されている(桜井省司撮影、提供:株式会社LEGION)

地球上の生きものが利用できる物質の量は決まっています。人が占有する物質の量、命を宿す物質の量(体重)だけで考えても100年前は20億人分、現在70億人分、今後もしばらくは右肩上がりに増え続けると予想されています。さらに生活のために占有する物質量を考えると絶望的でさえあります。

地球上の生きものを細胞ととらえると、地球は一つの生命体です。大気や水、海水の循環は血流です。人という細胞が人の中でだけ通用する理屈をつくりあげ一方的にわがままに振る舞い、地球が「もう我慢の限界です」というサインを出し続けているのが現代なのではないでしょうか。

付加価値の見つけ方、シフトを

お金を介した疑似生態系の中での生存競争は激しい。企業はお金を得るためにライバルよりもより付加価値をつけた商品を生み続けなければいけません。僕はこの付加価値の見つけ方をシフトすること、物を選ぶ基準の多様性を生むことで、奪い続けるだけではない未来の可能性があると思います。

1000円の腕時計と100万円の腕時計、100万円の腕時計を選ぶことに合理的な理由はありませんよね。所有する喜びやメーカー名のブランド価値観が違うだけですね。1000円の腕時計の方が正確に時を刻むかもしれないのにです。

ブランドの価値観と同じように、他の生き物と共に生き続けたいと願う「優しさ」の価値観が根付いたらどうでしょうか?。たとえば持続可能性や生物多様性に配慮したことを保証する「認証」商品とかが考えられますね。

でも優しさの価値観が生まれなければ始まりません。この点では日本は世界の中でも後進国になりつつあります。なので、その認証商品に価値を見つけ有意に選ぶ人の心も育てなければいけません。

その心を生み育てる場として動物園の可能性は無限にあると思います。動物園は人に翻弄され続ける動物の側からの目線でメッセージを発することができる場です。命をとおして人に気づきを与える場でもあります。

旭山動物園は4月28日に誕生51年目の開園を迎えます。未来が少しでも明るくなり夢を持てる未来であるために今やるべきことを見定め実行していきます。

坂東元(ばんどう・げん)
(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)
1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。
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