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カリスマの直言

市場揺らす米中貿易戦争懸念 行方を読む(武者陵司) 武者リサーチ代表

2018/4/16

米国は中国の突出した顧客であり、その要求は受け入れざるを得ない。中国が打ち出した鉄鋼とアルミの追加関税に対する報復措置を見ても、その対象はフルーツ、ナッツ、シームレス鋼管、豚肉など重要性の低い品目にとどめており、全面対決を回避しようとの姿勢がうかがえる。

米国は実際に関税を課すまでに一定の猶予期間を設け、中国と交渉する意向だ。最終的には双方が妥協し、米中貿易戦争は回避されるであろう。実際、中国の習国家主席は4月10日の講演で、国内市場を外資にさらに開放する方針を示した。米国との貿易摩擦を和らげ、交渉による解決につなげる狙いといえる。

■米朝の危機も当面遠ざかる

一方、北朝鮮についても当面、米朝の武力衝突などの危機は遠ざかった。米朝首脳会談では米の最大の狙いである北朝鮮の非核化問題が話し合われる見通しだ。仮に会談が不調に終わったとしても、北朝鮮は非核化協議の枠組みである6カ国協議に復帰して継続協議に応じる意向とされる。

不安定化していた金融市場は、中国と北朝鮮の譲歩による地政学・通商リスクの軽減を大いに評価する局面へと移行するだろう。

とはいえ、長い目で見れば、米中の角逐は続くだろう。トランプ政権の通商政策を担当しているカリフォルニア大学教授、ピーター・ナバロ氏は、著書「米中もし戦わば 戦争の地政学」(邦題)で、「共産党独裁政権による中国の覇権追及は変わりようがない」「それは必然的に米中衝突を引き起す」「それを回避するには中国の軍事力増強の基礎である経済力を弱め、未然に中国に米国覇権に挑戦する意欲をそぐことしかない」――などと主張している。

■長期的には米中対立が続く

中国の名目GDPは09年に日本を上回り、16年にはユーロ圏を追い越した。今の成長トレンドが持続すれば26年に米中逆転が起きると予測される。米国が知的財産権保護などの対策を怠る中国の「フリーライド」を容認し、みすみす逆転を許すことはないであろう。

では、米国はいかに長期的に中国のフリーライドを抑制し、経済台頭を抑えるのか。米国は大いなる成功体験である日米貿易摩擦に学び(1)通貨切り下げを禁止し、中国の競争力を低下させる(2)知的財産権保護の厳格化(3)中国の市場開放――などを求め続けるだろう。

中国は「製造2025」プランを策定し、ハイテク市場、特に次世代通信規格「5G」において世界の支配権を握ろうとしている。中国が最先端技術で先行し、世界市場を押さえ、経済成長を持続させることができれば、懸案である巨額の不良債権をスムーズに処理できる。今後の米中覇権争いの焦点がハイテク分野での攻防であることは明らかである。

本格的な衝突に至らずとも、ことあるごとに米中対立のリスクは顕在化するであろう。人工知能(AI)などの普及を背景とする「新産業革命」の下で米国を中心に企業業績は今後も好調に推移するとみられる。このため、長期に株高が続くとの見方に変化はないが、米中の対立リスクも頭に片隅に置いて置くべきだろう。

武者陵司
武者リサーチ代表。1949年長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券入社。企業調査アナリストを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト。97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長。09年武者リサーチ設立。著書に「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。

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