電脳科学者・坂村健さん 両親「好きなことをしろ」
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回はコンピューター科学者の坂村健さんだ。
――世界で情報通信技術に貢献した人に与えられる国際電気通信連合(ITU)150周年記念賞を受賞。独創性は親譲りなのですか。
「父は製薬会社に勤める会社員でした。日本の復興期を支えた世代で、仕事一筋。ほとんど家にいませんでした。ただ、本を読むのが好きで、私にもよく本を買ってきてくれました。一番面白いと思ったのがSF。科学を好きになるきっかけになりました。ラジオやアマチュア無線に興味を持つと、『秋葉原に行くと電子部品を売っているよ』と教えてくれました」
「『勉強しろ』とか『そんなことはやめろ』といったことは一切言わず、私に好きなことをさせてくれました。いつも話をするのは母でしたが、母が僕の希望を父にうまく伝えていました」
――お母さんは専業主婦だったのですか。
「はい。専業主婦でしたが、絵を描くグループに入っていて、とても活動的でした。おいしいラーメンを店で食べると作り方を研究するんです。鶏ガラを買ってきて家でぐつぐつ煮てプロ顔負けのラーメンを作ってくれました。あの味は忘れられません。何でも研究熱心な母の影響も相当、受けたと思います」
――自身の3人の子どもとは、どんな接し方をしているのですか。
「好きなことをやらせるという両親の教育を見習って、私も3人の子どもたちには自由にやらせています。長男は電子電気工学を専攻したのですが、今は好きな服飾関係の仕事をしています。次男は都市工学を、末の長女が情報関係の研究者。皆好きなことをやっています」
「父と同じで、私は仕事でいつも家にいませんが、両親の時代と違い、メールや交流サイト(SNS)があるのでコミュニケーションがちょっと多いかなという感じです。直接話すと余計なことを言ってしまいがちです。文字にするとそんな表現は削るので、良いコミュニケーションができます。メールやSNSで子どもとやり取りするときに女房も入れると、コミュニケーションが膨らみます」
――両親からいろいろな影響を受けたのですね。
「両親は夫婦関係のお手本でもあります。ポイントは女房に逆らわないこと。女房の言うことをすべて聞いていれば夫婦円満です」
「私の仕事の功績が評価されて日本学士院賞を受賞したときのこと。天皇、皇后両陛下御臨席で賞をいただく式に両親が同席しました。両親は涙を流していました。私の仕事は両親にはちんぷんかんぷんだったかと思います。でも世の中の役に立っていることをしているのだと実感したようで、喜んでいました。それからまもなく父は亡くなりましたが、親孝行ができてよかったです」
[日本経済新聞夕刊2018年4月10日付]
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