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花房晴美が弾くドビュッシー没後100年

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NIKKEI STYLE

フランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918年)が没後100年を迎えた。フランス音楽の演奏で世界的に定評のあるピアニスト花房晴美さんがドビュッシーの核心を語る。

まばらな音の色合いが一つ一つ克明に表現され、研ぎ澄まされた美の世界が音の映像となって浮かび上がる。花房さんが弾くドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」だ。「前奏曲集第1巻」第8曲であるこの小品は、ドビュッシーの作品の中でも最もポピュラーなものだ。楽譜は短く、音符も少ない。初心者でも一見弾けそうだ。しかし、ただ音符通りに鍵盤を押さえても音楽にならないのがドビュッシーの難しいところだ。

明確なビジョンを持って曖昧さを表現する

「音の数を最小限にし、最大の効果を生む曲を作った」と花房さんはドビュッシーについて語り始めた。2017年10月13日に東京文化会館小ホール(東京・台東)で「日本デビュー40周年記念リサイタル」を開いた花房さん。なぜ「日本デビュー」かといえば、桐朋女子高校を卒業後、パリ国立音楽院に留学し、卒業後にそのままフランスで音楽活動を始めたからだ。

こうした実績を背景に、1980年代にレコーディングしたラヴェル「夜のガスパール/鏡」やドビュッシー「前奏曲第1巻」はフランスで高く評価された。仏ハイファイステレオ誌はクララ・ハスキル、ウラディーミル・ホロヴィッツと並び「花房晴美」の名前が巨匠ピアニスト名鑑の「H」項に刻まれるだろうと評したほどだ。完売の40周年記念リサイタルでは、長年にわたり得意としてきたドビュッシー「前奏曲集第1巻・第2巻(全24曲)」を抜粋で演奏し、後半にはラヴェル「夜のガスパール」を弾いた。

今やフランス音楽の第一人者と目される大御所ピアニスト。3月2日にはトッパンホール(東京・文京)で催された「ダブルリードの夕べ」と呼ぶコンサートで世界一流の管楽器奏者たちとフランス近現代音楽を共演した。オーボエの世界的名手ハンスイェルク・シェレンベルガー氏やクリストフ・ハルトマン氏らとプーランクやフランセの室内楽曲を奏でた。ドビュッシー没後100年の今年は彼女がドビュッシー作品を弾く機会も増える。2010年から東京文化会館小ホールで続けている「室内楽シリーズ パリ・音楽のアトリエ」。その「第14集」(4月20日)には「チェロソナタ」、「第15集」(11月15日)には妹の花房真美さんとの共演で「小組曲」などピアノ連弾作品を披露する予定だ。

花房さんにドビュッシー作品をどう解釈し演奏するのか聞くと、「明確なビジョンを持って曖昧さを表現する」との答えが返ってきた。パラドックス(背理)ともいえる方法論だ。「ドビュッシーパラドックス」がどんな演奏芸術に結実するのか。

 「ドビュッシーが素晴らしいのは、言葉で言い表せない何ともいえない響き。空気とも呼ぶべきもので、つかみどころがない。曖昧で輪郭がはっきりしない」と花房さんは言う。光や水、もや、煙などの捉えどころのない移り行きを描くクロード・モネら、フランス印象派絵画と比べられるゆえんだ。

時間とともに移ろいゆく光の色や香りの空気感

しかし「形がないままで、何も分からないままで終わらせてはドビュッシーにならない」と主張する。形のある音楽作品に仕上げるには「楽譜を明晰(めいせき)に分析し、すごくはっきりしたビジョンを持たなければならない。そうして初めて曖昧さを形として聴き手に届けることができる」。そして彼女は、枠のない空気のような音楽を何らかの形として聴き手に送り届けるために「日夜努力している」と話す。

19世紀後半から20世紀初めにかけて、ワーグナー、ブルックナー、マーラー、リヒャルト・シュトラウスらドイツ語圏を中心としたロマン派の作曲家たちは大掛かりな管弦楽編成と長大な構成の音楽を志向した。そうした中でドビュッシーは管弦楽曲「牧神の午後への前奏曲」「海」「夜想曲」やピアノ曲「ベルガマスク組曲」「映像」といった作品群で旋律、和声、リズムともにこれまでにない革新的な路線を打ち出した。長調でも短調でもない全音音階による曖昧な和声感、不協和音の多用、音数が少なくて透いた感じのするシンプルな管弦楽法や編曲法、始まりも終わりもない流砂や風のような構成などを特徴とする斬新な楽曲が生まれた。

「フランスの作曲家の中では光の色や香り、空気感が一番出るのがドビュッシーの音楽」と花房さんは言う。時間とともに移ろいゆく光や香りをピアノでどう表現するか。そこでまず必要なのは明確なビジョン。例えば「亜麻色の髪の乙女」。音数が少なくてシンプルな曲だから「一見簡単そうで、ピアニストは何もしていないと思われるかもしれない」。しかしそこには「静かなおしゃべり」の細かな表情の変化を付ける工夫が随所に組み込まれている。

「おしゃべりの場合、次の言葉に対して発声が浮き沈むことがある。それをピアノの音でどう膨らませたり、動かしたりして聴かせるかが技術。そうしないと間合いが取れない。機械的に弾いたらデパートで流れていそうなイージーリスニングになってしまう」。本当のドビュッシーを聴いてもらうには「簡単なフレーズの中に動きを持たせる工夫が絶対に必要になる」と強調する。

 ドビュッシー作品の演奏で高い評価を受けてきた花房さんだが、「ドビュッシーを意識して演奏し始めたのは20代になってから。若い頃は何がいいのかさっぱり分からなかった」と正直に明かす。「自分の性格からして白黒はっきりしているのが好きで、曖昧なのは嫌い。だからかつてはチャイコフスキーやラフマニノフの方が断然好きだった」

いくらでも高みに行けるぜいたくな音楽

しかしフランスに暮らすうちに「言葉が分かるようになり、絵画やファッションなど美しいものを生み出すフランス人のセンスを私なりに理解できるようになって初めて、ドビュッシーの音楽の良さを感じられるようになった」。演奏には「センス」という技術が必要なのだ。

「ドビュッシーはぜいたくな音楽」とも指摘する。豪華で派手な音楽という意味ではなく、「いくらでも高みに行ける音楽」であるからだ。高みに上っていくためには「美を生み出すセンスを理解し、音楽の裏付けとなる明確なビジョンを持たなければならない」。それは「お金で買えるぜいたくではなく、目に見えないぜいたく」なのだ。そういう意味で「最もぜいたくな音楽の一つ」と花房さんは主張する。

ドビュッシーの作品は、大掛かりな編成や構造で盛り上げて聴き手を感動へと導く音楽とは対極にある。マーラーが自らの指揮で感動巨編といえる自作「交響曲第2番『復活』」をパリで初演した際、臨席していたドビュッシーが途中で帰ってしまったという逸話は有名だ。目指す音楽が全く異なっていた証左だろう。

しかし、ドラマチックな山場に乏しく、淡々として激さないイメージのドビュッシーの音楽にも「フォルテ(強く)やフォルティッシモ(非常に強く)はちゃんと存在する」と花房さんは説明する。「フォルテを鳴らすのは怖し、鳴らさずに済ませるのも簡単。そのほうがドビュッシーらしいと思われるくらい。でもそのフォルテを鳴らさなければ、本物のドビュッシーにはならない」

今回の映像で花房さんは「亜麻色の髪の乙女」と並んで「前奏曲集第2巻」から第12曲(終曲)「花火」も弾いている。「花火を見たことがない人はいないと思うので、イメージするのはやさしい」。明確なビジョンをもって表現しやすく、比較的分かりやすい曲といえる。だが花火のように瞬間的に放たれる響きは、現代音楽と呼べるほど斬新だ。彼女が微細なニュアンスを施して弾く終結部は、ロマン派音楽の感動とは異質の、花火が散りゆく澄み切った空間の芸術美を聴かせている。

ドビュッシーにはカフェのBGMやテレビCMなどに盛んに使われる親しみやすい曲も多い。気軽に聞き流せる曲もある。弾くのも聴くのも比較的容易に思える。しかしその曲が表現している本当の世界を知ろうとすると、つかみどころのなさに戸惑うのも事実だろう。「亜麻色」がどんな色か想像するのさえ案外難しい。演奏家のセンスと技量がここで問われる。花房さんは「分からないままにせず、本物のドビュッシーを形にして届けたい」と抱負を語る。没後100年の今年、ドビュッシーの美の形が新鮮に浮かび上がる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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