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「車いすだから雇いたい」 カナダで誘われた仕事とは マセソン美季さんのパラフレーズ

2018/4/13 日本経済新聞 朝刊

マセソン美季さん

 「車いすユーザーで日本語が話せるのか、君は。ぜひ、うちで働いてくれないか?」。カナダのトロントで道すがら、男性に声をかけられたことがある。

 突拍子もない声かけに、最初は警戒した。転職に興味はなかったので素通りしようかと思ったが、なぜ車いすに乗る私にあえて声をかけたのか、知りたかったので理由を聞いてみた。

 旅行代理店で仕事をしているという彼は、カナダにやってくる観光客を迎える現地の観光ガイドを探しているところだった。近年は日本の年配の方が増えているという。カナダに来れば、少々足腰が弱っていても他人の目を気にせずに自由で快適な旅行ができる、との口コミが広がった。それでお客さんが増え、スタッフを増員する必要があるそうだ。

 現地ガイドに求めている条件は「日本語が話せること」と「観光客に負担をかけないルートを提案できること」。ガイドに必要な知識は全て研修で学べるらしい。それでも疑心暗鬼の私の表情を察したのか、彼はさらに説明してくれた。

 車いすユーザーのガイドが案内する場所なら、長い階段や足場の悪いところはないはずなので、これ以上の適役はいないと思ったという。面白い着眼点だなと感心した。彼の役に立つことはできなかったけれど、先日、久しぶりにトロントの空港でたまたま再会した際、今もビジネスは順調だと言っていた。

 日本では今月から障害者の法定雇用率が引き上げられた。民間企業は原則、2.0%から2.2%へ。障害者がごく普通に地域で暮らす「共生社会」実現の理念の下、事業主は、法定雇用率以上の割合で障害者を雇う義務がある。

 障害者を雇うことを躊躇したり、どういう仕事を任せるかに頭を抱えたりする経営者も、まだ少なくないと聞く。旅行代理店の彼のように、障害者の能力や才能に目を向けられる人なら、「法律があるから雇わなければならない」ではなく、「雇いたいから雇う」という関係につながるのではないか。豊かな発想の持ち主のもと、障害者が生き生きと働ける職場が増えることを期待したい。

マセソン美季
 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

[日本経済新聞朝刊2018年4月12日付]

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