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これで1日楽しく 落語のマクラ一挙公開

立川談笑

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NIKKEI STYLE

弟子の吉笑と交互に連載する「マクラ」エッセー。今回はちょっと目先を変えて、実際に高座のマクラで使っているジョークを披露します。気楽に読み流して下さいね。

タクシーにて

「すみません、運転手さん。次の信号を右でお願いします。運転手さん?運転手さん!…おじいちゃん運転手だから耳が遠いのかな?ねえ、運転手さん!すみません!」

透明のプラスチックボードをたたくと、ようやく運転手が振り返った。

「ぎゃー!」

急ブレーキで停車すると慌ただしくシートベルトを外して車外へ出る。車を見て一息。我に返ったように運転席へ。

「ああ、お客さん、どうも失礼しました。取り乱しまして。おけがはありませんか」

「いったいどうしたんですか?」

「いやあ。私、つい昨日まで霊きゅう車専門だったもので。後ろから声をかけられるなんて」

忍者

休日の昼下がり。若者ふたりが山道をドライブしていると、急ブレーキ。

「うわっ、どうした?」

「さっきのカーブに、忍者がいたんだ」

「忍者?この時代に?」

「いや、いたんだってば」

路肩に車を止め、ふたりが戻ってみると確かに忍者がいた。

黒ずくめの忍者衣装で、背中には刀。はいつくばるようにして、アスファルトにぴったりと耳をつけている。

「うわ、本当に忍者だ!」

「何かしゃべってるぜ」

「…赤のスポーツセダン。運転席には20代男性。助手席は20代女性。現在、時速80キロで南に向かって走行中」

「すごいよ! ねえねえ、忍者さん。どうしてそんなことが分かるんですか?」

「いま、その車に、ひかれた」

素潜りの名人

南の島の海。ダイビングのインストラクターが生徒たちを連れて海に潜っていた。5メートル、10メートル。ふと横をみると、アクアラングの装備をつけていない男がついてきている。

「素潜りでこの深さとはすごいな」

さらに15メートル、20メートル。まだついてくる。

インストラクターは驚き、メッセージボードに書いて、みせた。

「どこで素潜りの技術を覚えたんですか?」

素潜りの男はボードを奪うと、手早く書いた。

「バカ!おぼれてるんだ!」

バカ世界大会

「世界一のバカだなおまえは!ぶっちぎり!バカワールドカップがあったら、おまえは絶対に銀メダル間違いなしだな!」

「どうしてぶっちぎりで世界一なのに、銀メダルなんだよ?」

「きっと実力が発揮できないから」

熟練のドライバー

「もしもし、おじいちゃん?運転中だよね。ごめんね」

「おう、マイコか。急用か?」

「あのさ、今テレビのニュース見て慌てて電話したんだけど。今走ってるの、東名高速だよね。やっぱりそうだ!今ね、東名高速を逆方向に暴走してる危ない車いるんだって。ねえ、そこだよ!気をつけてね、おじいちゃん!」

「わっはっは!なーに言ってんだ。じいちゃんは運転上手だから、逆走車だってパッと気付いてサッと避けちゃうんだ。あっはっは。ぶつかりゃせんよ」

「でもさ、いざとなったら分かんないじゃん」

「避けられるって!わっはっは。実はな、ついさっき、その逆走車とすれ違ったよ。こっちに向かって走ってくるから『危ねえ!』ってとっさに避けたところだ」

「うっそ~!」

「なぁに考えてんだか。運転してたのは若い男だったけど、えらいスピード出してた。高速で逆走なんて、とんでもねえ」

「良かったあ、無事で。もう、本当に心配してたんだから。じゃ、大丈夫だね」

「わーっはっはっは!おまえのおじいちゃんは、まだまだモウロクしとりゃせんよ。ほうらまた逆走車!また逆走車!こいつも逆走車!」

「…おじいちゃん!おじいちゃん!?」

新婚の朝

「ねえ、結婚したんだって?」

「そうなのー!」

「いいないいなあ!朝はどっちが先に起きるの?」

「えっとね、彼。だからいつも起こしてもらっちゃうんだ」

「いいなあ!どんなふうに起こしてくれるの?」

「カーテンを半分だけ開けてね。ほら、全部開けるとまぶしすぎるから」

「わー!やさしいー」

「で、そっと肩をゆすってくれて、ほっぺにチュッ!って」

「わーわー、それでそれで?」

「『おい、起きろよ、めぐみ』って」

「いいなあ!毎朝?」

「そう。毎朝」

「そんな風に優しく起こしてくれる彼に、あなたはいつも何て言うの?」

「『めぐみじゃなくて恭子だよ』って」

国家存亡の危機

某国の軍事訓練所。そこではVIP警護、つまりSPになるための最終面接が行われていた。

「きみはここまで射撃・格闘術の実技試験、筆記試験など、すべて優秀な成績だった。今から行うのは、最終面接だ。とっさの際の危機回避、判断能力を試す。この面接をクリアできれば、きみは晴れてSPとして採用される。いいな」

「はい。お願いします」

「きみは単独で最高指導者の身辺警護を担当している。会議場前の歩道を歩いていると、指導者めがけて猛スピードで突っ込んでくる自動車が1台。振り返ると後ろからは拳銃や刃物を手にした覆面の男たちが5人、最高指導者に向かって走ってきた。きみが持っているのは拳銃で、6発の実弾が入っている。相手は1台と5人。どの順番で拳銃を発砲する?国家の危機を救うためだ」

「ええと、最高指導者に向けて6発」

ごめんください

「こんにちは。お父さん、いる?」

「いらない」

犬と新聞

「ねえ、パパ。知ってた?うちのワンちゃん。とーっても賢いの」

「どうして」

「だってほら。いまあながた読んでるその新聞、今朝もあのこがとって来てくれたのよ」

「ふうん。でもその程度の犬なんて、世間にはいくらでもいるんだろ」

「うち、新聞とってないじゃない」

さあ、いかがでしたか。またいつかジョーク特集、ご披露しますね。

では、良い一日をお過ごしください!

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

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