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麺つゆの呪いとけた? しょうゆを上回る人気と進化

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NIKKEI STYLE

麺つゆを取り巻く世界は、いつもにぎやかだ。「麺つゆを料理に使うような女性とは付き合えない」といった乱暴な文言がSNS(交流サイト)で定期的に投稿され、川のように流れてあちこちを巻き込みながら時に炎上、時にレシピ大交換会となりながら、忘却の海へと去っていく。麺つゆ以外にも、例えばスープの素や粉末だしなどもやり玉にあげられることがあるが、圧倒的に麺つゆの登場回数が多い。つまりはそれほど、麺つゆが広く世間に知れ渡っている証しでもある。

麺つゆとは何か。

消費者目線で言えば、それは「だしの効いた甘じょっぱいしょうゆ味のつゆ」の総称だ。日本人の好みのど真ん中を射抜く、スーパー調味料。もはや和食の枠を超え、あらゆる食材が麺つゆに漬けられ、煮込まれ、かけて食される。「麺つゆを料理に使うような~」というアンチ麺つゆ派が出てくるのも、人気ゆえのことだろう。

実際に、麺つゆの消費量の伸びはすさまじい。総務省統計局の家計調査報告で年間支出金額の推移を見てみると、1987年から2017年の30年の間に、麺つゆ(つゆ・たれ)は約2倍の伸びを見せている。逆に麺つゆの主材料であるしょうゆの支出金額は30年でほぼ半分まで落ち込んでいる。

1994年にしょうゆと麺つゆの支出金額は逆転し、今では大差で麺つゆの勝ちだ。「麺つゆは買うけど、しょうゆって最近買っていない」という私の友人の言は、そう珍しい話ではなかったのだ。

ところでその、あなたが「麺つゆ」と呼んでいる、それ。それは本当に麺つゆだろうか。家に帰ってよーくご自宅の麺つゆボトルを見てほしい。おそらくほとんどの人が「麺つゆじゃなかった!」と驚くのではないか。

消費者目線では「麺つゆ」と呼ばれるものが、食品表示を所管する消費者庁目線では違うカテゴリーになることもある。表示の規定では「そば、うどん等のめん類のみに用いるもの」のみが「めんつゆ」としている。麺類以外の用途に使われるものは単なる「つゆ」もしくは「しょうゆ加工品」という名称になる。実際うちにある麺つゆも3つが「つゆ」、2つが「しょうゆ加工品」だった。

とはいえ「麺にしか使わない」「それ以外にも使う」の間に、差異はあっても優劣はない。要は作り手がどういう気持ちで作るか。また使い手がどういう用途に使うか。そのマリアージュとマッチングに面白さがあるということだ。ここではすべて、多くの家庭で呼ばれているように「麺つゆ」と呼ぶことにする。

もともと麺つゆは、そばうどん店など専門店の門外不出の味を家庭で再現するための便利調味料として生まれた。私くらいの昭和ミドル世代は、来る日も来る日もそうめんだった夏の日を覚えているだろう。どこからかお中元で山のようにやってくるそうめん。

「お昼ごはん、そうめんでいいよね」という母親の、有無を言わせぬご託宣。「またそうめんか」と、正直うんざりしていた夏のそうめんが、ある年に突然おいしくなった。そう、今思えばあれがうちの実家の「麺つゆデビュー」の年だったのだ。

母は料理上手だったと思う。それでも麺つゆのような、家庭料理の枠に入りきらないものを作ることには四苦八苦していた。干しシイタケを戻し、カツオブシの種類を変え、アレを足したり、コレを引いたりと試行錯誤して作っても、舌が肥えた父は首を縦に振ることはなかった。冷蔵庫には試作品と失敗作が次々貯蔵され、麦茶と間違えてうっかり飲んでしまう失態も毎年の恒例行事。麺つゆとはそんなにも難しいものかと、子供心に戦々恐々としていたものだ。

それが市販品の導入で、事態は一変した。もう冷蔵庫に出来損ないの麺つゆが備蓄されることもなくなった。母が使っていたのは、小さな缶に穴を開けて使うタイプだったが、お手伝いと称して穴を開けていると、そうめん作りの中枢を任されているような誇らしげな気持ちになったものだ。

市販品を導入したあたりから、実家のそうめんは具沢山になっていった。理由は簡単だ。昭和ヒトケタの九州男児である父が「つゆを作らなくて良くなったんだから、その分楽になっただろう」と、具をいっぱい添えることを命じ始めたからだ。

今の私なら「人に作らせておいて何を言ってるんだ。具が食べたいんだったら自分で作りな」と怒るだろう。だが私も子供だったし、母も昭和の女性だった。「つゆは市販品を使っているから、これくらいはしないとね」と罪悪感をあらわにしながら肉そぼろを作り、油揚を焼き、ナスを揚げ浸しにし、ミョウガやショウガやネギを取りそろえた。

麺つゆで楽できたはずの時間は、どこへ行ってしまったのか。ともかく当時の昭和ヒトケタには悪気はなかったし、母も「市販品なんか使っちゃって申し訳ない」というスタンスだった。「今はそんな時代ではない」と言いたいところだが、「麺つゆを使うような女性とは~」という発想がSNSのタイムラインに表示されるのを見る限り、まだ呪いは完全に解けてはいないのだろう。

そういう私自身も、長い間「麺つゆの呪い」にかかっていたクチだ。なまじ料理が好きで、できるばかりに「こんなものを使うわけにはいかない、プライドが許さない」と頑なに拒否していたのだ。あんなものを使ったら、料理が全部麺つゆの平坦で均一な味になる。それにうま味調味料も使いすぎではないか。麺つゆに繊細な料理など作れるはずがない。ダサい料理にしかならない、と信じていたのだ。

市販の麺つゆを買いたくないあまりに、自分で瓶に昆布やカツオブシ、しょうゆにミリンに日本酒などを合わせた自家製麺つゆを常備していたときもあった。しょうゆの種類や、甘みの量を変えたものを何種類も作っては冷蔵庫に貯蔵し、ご満悦だった時代もあった。麺つゆを否定しながら、麺つゆを作ることに夢中になっていたのだ。バカだなあ。市販の中から好みのものを探す方がずっと簡単だったのに。

私と同じ呪いにかかっている人は、どうかプライドと偏見を捨て去って麺つゆを試してみてほしい。麺つゆの進化はすさまじい。参入するメーカーが増え、ひとつのメーカーで作る種類が増え、次々と新しい麺つゆが生まれている。どんなジャンルでも、人気のあるコンテンツは急激に進化する。「こんなものまであるのか!?」と、麺つゆの世界の広さに驚くことだろう。

根底に流れる「だしのきいた甘じょっぱいしょうゆ味」という概念は同じでも、メーカーにより、商品により、材料も味わいも違う。特に地方のメーカーは自ずとその土地の好みにあったものを作るため、カツオブシではなくアゴだしだったり、白だしの種類がやたら多かったり、しっかりした甘味を売りにするものが多かったりと、郷土の味がどういうものかをほうふつさせる仕組みになっている。そう、麺つゆとは決して均一の平坦なものではない。十把ひとからげにしてはいけないものなのだ。

メーカーの人はどうか、お試ししやすいように100ミリリットル以下のミニボトルを作ってもらえないだろうか。私はもっとほかの商品も試したい。どこかに今よりもっと気に入る麺つゆがあるに違いないと信じているのだ。通常より割高で構わない。割高が5本セットでさらに割高になろうが、構わない。どこかで試食するのではなく、いつものキッチンでいつもの料理に、2回くらい使ってみたいのだ。

ああ、どこかに麺つゆミュージアムがあったらなあ。全国の麺つゆミニボトルを集めた天国だ。外貨は稼げないかもしれないが、内需は天井知らず、しかも右肩上がりだ。お願い、えらい人、ミュージアム作って。

(食ライター じろまるいずみ)

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