海岸で大量の恐竜の足跡 謎多いジュラ紀中期にヒント
今から1億6000万年以上前、後に英国となる土地に点在する潟湖の周りを、竜脚類と呼ばれる首の長い恐竜が歩き回っていた。その恐竜たちの足跡が、英スコットランド、スカイ島の激しい波が打ち寄せる海岸で大量に見つかった。
スカイ島の岩の多い海辺に立って眺めると、恐竜の巨大な足跡はまるで潮だまりのようだ。ただしよく観察すれば、そこに恐竜の足の輪郭を見て取れる。
「この足跡は長年の間、ありふれた風景の中に隠れていました」と、米国の南カリフォルニア大学の古生物学者、マイケル・ハビブ氏は言う。「これを見ると、竜脚類が他の生き物に比べていかに大きいかがわかります。われわれ古生物学者も、最初からそこまで大きなものを想定してはいませんから」
今回の調査では、巨大な足跡に混ざって、獣脚類の特徴ある3本指の足跡も見つかっている。獣脚類とは、白亜紀に登場するティラノサウルス・レックスの古い親戚と考えられている恐竜だ。
先日、学術誌『Scottish Journal of Geology』に詳細が発表されたこれらの足跡は、1億7400万~1億6400万年前までのジュラ紀中期を知るうえで、希少な手がかりとなる。ジュラ紀中期の恐竜の化石は、種類を問わず、これまでほとんど見つかっていない。今回の発見によって、スカイ島は謎の多い時代に光をあてる重要な拠点として知られるようになるだろう。
「ジュラ紀中期は非常に重要な時代でした。この頃、最初の鳥が空に飛び立ち、最初のティラノサウルス類が現れ、最初の巨大な竜脚類が登場しました」。論文の共著者で、ナショナル ジオグラフィックの助成金を受けているスティーブ・ブルサット氏は語る。
「スカイ島はこの時代の化石が見つかる数少ない場所のひとつです」
試練だらけのフィールドワーク
2016年4月、研究者のダビデ・フォッファ氏とホン=ユ・イー氏は、ルーア・ナム・ブラーレン(兄弟岬)と呼ばれる場所で偶然、新しい足跡を発見した。2017年、ブルサット氏は教え子のページ・デポロ氏と共にナショナル ジオグラフィック協会の資金提供によるフィールドワーク(現地調査)を実施し、現場の地図を作成して足跡の分析を行った。
「フィールドワーク」という言葉を聞くと、砂漠に立つインディ・ジョーンズを思い浮かべる人もいるだろう。しかしスカイ島の場合、「フィールド」とは、雨混じりの冷たい風が頭上で常に渦を巻き、研究者らが地図作成に使おうと考えていたドローンがまともに飛べないような場所だ。しかも満潮が来るたびに、足跡化石は水に浸かってしまう。
「私はバックパックの外側に時計を付けて、常に時刻を確認していました。『そろそろ水が上がってくる頃ね――ほら来た』という具合です」。論文の筆頭著者で、米ネバダ州立博物館客員研究員のデポロ氏は語る。「だんだんと慣れてしまうものです」
干潮時に足跡化石の画像データを作成するために、デポロ氏は自ら「インターバロメーター」と命名した装置を作り上げた。これは、簡単に持ち運びができるポールに、2台のカメラを並列に取り付けたものだ。デポロ氏がもうひとりの研究者と一緒にこの装置を持って歩くと、人間がふたつの目で奥行きを認識できるのと同じように、2台のカメラが足跡化石を3Dで記録していく仕組みだ。
かつて世界中で繁栄していた竜脚類
今回の足跡は、粒子の細かい潟の堆積物の上に残されていた。これは、スカイ島で以前見つかった足跡と同じ状況だ。つまりスカイ島の竜脚類はふだん浅瀬を水に浸かりながら歩いていたのだろうと、デポロ氏とブルサット氏は推測している。
20世紀初頭の古生物学者たちは、首の長い恐竜は沼地に暮らすことしかできず、重い体を水の浮力に支えられて生きていたと考えていた。その後の研究によって、彼らは陸上を歩き、世界のさまざまな場所で暮らしていたことがわかってきた。竜脚類の骨や足跡は、南極大陸を含む七大陸すべてで見つかっている。
「彼らは水の中でしか生きられずに不自由な思いをしていたわけではありません」とブルサット氏は言う。「それどころか竜脚類は非常に活動的で、エネルギーにあふれていました。彼らは大いに繁栄し、地球上のあらゆる環境で生息していたと考えられます」
スカイ島では、今後もさらに多くの足跡が見つかる可能性がある。ブルサット氏のチームはすでに有力な候補を発見しており、今秋、博士号を取るためにエジンバラに戻ってくるデポロ氏がリーダーとなって調査を進める予定だ。
デポロ氏は言う。「これぞまさに冒険ですよね?」
(文 MICHAEL GRESHKO、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年4月5日付]
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