ミュージアムの壁の中に「現代版・ラスコー洞窟」が

イヴ・サンローラン美術館から徒歩で5分もかからないところにある「パレ・ド・トーキョー」。この名前は、第1次世界大戦でフランスの同盟国であった日本の首都にちなみ、この場所が「東京通り」だったことからきている。その後の第2次世界大戦で日本は敵国になったので「ニューヨーク通り」に改名されたが、建物にその名前は残った。

(左)芸術の都のミュージアムにTOKYOの名前が。(右)大空間のロビーに圧倒される

現在は2万2000平方メートルの広さを誇るフランス最大のコンテンポラリーミュージアムだが、もともとはタペストリーの工場。1937年にパリ万国博覧会に合わせて近代美術宮殿としてオープンした。その後、ポンピドー・センターに展示が移転し、フランス国立写真センターやシネマテーク・フランセーズが同居していたこともある。

コンクリートの巨大な内部はどこか建築中の建物のよう。まず、ここには常設展がなく、すべてが企画展だけ。取材時には「DAIMYO(大名)」というよろい・かぶとを象徴的に使った展示をはじめ、8つの企画展が開催されていた。開館時間が正午から0時までというのも極めてユニーク。そして、いちばん驚かされたのが隠れたスペースにある「ラスコープロジェクト」と呼ばれる展示室だ。

展示中のDAIMYOは、英国のGEORGE HENRY LONGLYの作品
現代版ラスコー洞窟にはスタッフと一緒に入る。壁をはがして描いた人の顔は、ポルトガルのVHILSの作品

ここには世界中から招待された現代美術のアーティストが壁面に作品を描いている。いつもは壁に閉ざされているスペースは、先史時代の壁画が見つかって保存のために非公開になったラスコー洞窟のように、1日に先着で2組しか入れない。

館内には、エッフェル塔が見えるレストランが2つ。世界各国のデザインブックをはじめ、トートバッグやポストカード、文具などしゃれたお土産が見つかりそうなショップもある。

香水を体感、パリらしさいっぱいのミュージアム

ファッションとコンテポラリーのミュージアムは、ともに昔の建物を実に上手に生かしていたが、今回宿泊したパリ2区にあるホテル「オテル・バショモン(Hotel Bachaumont)」もポスト・オスマン様式の建物だった。18世紀の雰囲気を再現したホテルとして20世紀初頭に開業し、いったん病院になったが、16年に元のホテルの雰囲気を再現してオープンした。

(左)現代によみがえったアールデコ時代のアパルトマンのようなホテル。(右)スイートのバスルームには猫脚のバスタブに面取り加工のミラーが並ぶ

ホテルの入り口を入ると、アールデコの老舗ホテルだったころがよみがえったかのような美しい廊下があり、その奥にレセプションが控えている。吹き抜けにガラス張りのアトリウム天井を持つエレガントなブラッセリーに、ムードのある照明のバー。モダンな客室にも、面取り加工のミラーやアンティークの家具がアールデコの雰囲気を醸し出している。