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白井選手の高速ひねりも正確判定 体操に「IT審判」 富士通と日本体操協会が共同開発

2018/4/17

そのとき重要になるのが、「審判・選手との感覚のズレがないかを突き詰める作業だ」(佐々木氏)。3Dレーザーセンサーは関節の位置を検出するが、関節を結んだラインの角度は、例えば肘の内側を見るのか、外側を見るかによって感覚が異なったりもする。

また、センサーの設置位置によって選手の「見え方」が変わり、それがセンシングの精度に影響を与える。設置場所や台数などに関するノウハウの蓄積が必要になるという。

そこでセンサーが取得したデータをコンピューターグラフィック(CG)化したものを審判が見て、彼らの感覚とずれていないかを、ひとつひとつ確認する作業が重要になるという。「こうした検証を繰り返さないと使いものにならない」(佐々木氏)

緻密な検証作業は着実に前進している。17年10月にカナダ・モントリオールで開催された体操世界選手権では、審判向けの採点支援アプリのプロトタイプのユーザー・インターフェースをFIGに披露したという。

今、富士通では本社、研究所・関係会社を含め50人弱の体制で、デッドラインまで残された日数をにらみながら、作業を急ピッチで進めている。ゴールは20年東京五輪で男女10種目への適用だが、前哨戦となる19年10月のドイツ・シュツットガルトでの体操世界選手権には運用を間に合わせる必要がある。五輪のテストイベントも19年7月に始まるため、開発期間は実質、あと1年余りだ。

■世界標準のトレーニングシステムに商機

世界のアスリートが繰り出す高度な技を正確に判定するテクノロジーはスポーツの価値を高める大きな意義があるものの、これを富士通は将来、大きなビジネスに育てられるのだろうか。

藤原英則スポーツイノベーション推進統括部長は「市場性は大きい」と期待を寄せる。考えられるマネタイズ領域は3つ。まずは本流の採点支援。さらに試合のテレビ中継用データを放送局に提供することも可能だ。すでに跳馬での跳躍の高さ(最高到達点)データを民放に提供した実績がある。

トレーニングシステムの画面例。自分の演技と模範演技を比較しながら練習できる(写真提供:富士通)

3つ目はトレーニングシステムの販売。採点支援システムと同じ技術を使いながら選手用に見せ方を変えたシステムの開発が可能という。藤原氏は「FIGのルールに基づいて、このシステムが判定に導入されれば、世界各国の体操連盟などが選手のトレーニング用に導入する可能性がある」と指摘する。FIGには148カ国・地域が加盟しており、潜在市場の規模も大きい。

技術の世界でデファクトスタンダード(事実上の標準)を取るのと同様に、この採点支援システムが新たな「世界標準」となれば、それをベースにしたトレーニングシステムを日々使って競技力を強化しようと考えるのは、スポーツの世界でも自然な流れだろう。

アフリカ諸国などでは体操コーチの絶対数が少ないという問題を抱えている。トレーニングシステムにeラーニング的な機能を実装すれば、そうした国では遠隔でコーチングを受けたいというニーズに応えられる。

「体操のIoT(モノのインターネット)」ともいえる採点支援システムの開発は、「アグリテック」などと呼ばれる農業のIT(情報技術)化に似ている、と佐々木氏は語る。

両者には、専門家のみが知る「暗黙知」を聞き出してシステムに組み込むプロセスが重要という共通点がある。「体操の審判は、すべての演技について見るべきポイントを知っている。それを国際審判員にひとつずつ教わっている」(藤原氏)

まさに、多くのIoTの開発で求められる、現場に密着した地道な作業を進めているわけだが、その先には「日本発の世界標準」の確立という大きな果実が待っている。

(日経 xTECH 内田泰)

[スポーツイノベイターズonline 2017年7月21日付の記事を再構成]

体操のビッグデータは選手やコーチにどんな影響を与えるのか、五輪の金メダリストに聞きました。こちらもどうぞ。

日経からのお知らせ 日本経済新聞社は4月23日、2020年東京五輪・パラリンピックの成功を支える科学技術をテーマにした第3回日経2020フォーラム「テクノロジーが彩る2020年のニッポン」を開催しました。JXTGエネルギーの杉森務社長、富士通の山本正已会長が基調講演したほか、日本体育大学の具志堅幸司学長、元バレーボール選手の大林素子氏らによるパネル討論「スポーツと技術が紡ぐ未来」も実施しました。同フォーラムの模様は日経の映像コンテンツサイト「日経チャンネル」でご覧いただけます。

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