レクサスRX450hL 新しい高級車は3列シートSUV
高級SUV、レクサス「RX」の3列シート車「RX450hL」が2017年12月に発売された。これまでは大きな潮流ではなかった3列シートSUVだが、同じく昨年12月に登場したマツダ「CX-8」が300万円台からという価格とミニバン並みに広い車内で人気となり、急激に注目度を上げている。そんななか、小沢コージ氏はRX450hLをどう評価したか?
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ついにミニバンにも本格後継者が出現!
世の中、たいして変わってないようで、着実に移り変わってゆくものです。例えばファミリーカーの世界なんかも。
1980年代はトヨタ「マークX」のようなミディアムセダンがバカ売れしていました。その後、売れ筋はいつしかスバル「レガシィ」のようなステーションワゴンに変わり、一部クロカン4WDなどを経て、最近は3列シートミニバンの人気が続いていました。
3列シートミニバン全体として今は伸びていませんが、売れ行きトップの箱型ミニバン、トヨタ「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」の3兄弟を合計すると月間の販売台数は時に「プリウス」や「アクア」を超えるレベルに。
親子3世代で使えるファミリーカーはもはや3列シート車が標準で、なかなか5人乗りはメインにはなり得ません。
一方で大人数が乗れる3列シート車としてはミニバンを超えるものがなかなかなく、小沢は当分この傾向が続くと考えていました。
再び注目が集まる3列シートSUV
ところが先日、異変勃発。マツダが国内専用で3列シートのSUV「CX-8」を発売。1カ月間で受注1万2000台を超えてしまったのです(記事「7人乗りSUV『CX-8』は売れて当然? 驚きのコスパ」参照)。
これ以前にもミニバン的に使える3列シートSUVはありました。さほど目立ってませんでしたが日本車ではトヨタ「ランドクルーザー」、日産「エクストレイル」、三菱「アウトランダー」、輸入車ではメルセデス・ベンツ「GLS」、BMW「X5」、アウディ「Q7」、ボルボ「XC90」などなど。ただしどれもサードシートがさほど広くなかったり、価格が高かったりして爆発的人気には至りませんでした。
しかし300万円台前半から買え、車内もミニバン並みに広いCX-8が起爆剤となり、再び注目を浴びてきたのです。
そして先日高級SUVのレクサス「RX」に追加されたのが同車初の3列シートモデル「RX450hL」。ボディーを少し延長し、小ぶりのサードシートを追加したもので、769万円となかなかの価格。しかし、スタイリッシュなうえにレクサス自慢のハイブリッドシステムを持ち、売れる要素は備えています。
このジャンルの勢いを必然的に感じますし、もしやファミリーカーに続き、高級車界にも3列シートSUVの波がくるのか?
魅力はエレガントなボディーライン
RX450hLの一番の売りはボディーラインかもしれません。車名の「h」はハイブリッド、Lはロングボディーを意味し、全長×全幅×全高は5000×1895×1725mmと伸びやか。標準RXのボディーと比べると2790mmのホイールベースは変わらずですが、リアドア以降が110mmほどストレッチ。全体バランスは逆に良くなっている? という印象すらあります。そもそもRXは今のエッジ効きまくりのレクサスデザインの象徴のようなSUV。迫力あるX字型の糸巻きグリルと相まって存在感はなかなか。
そもそもRXは北米で人気のSUVで、450hLも2017年のLAショーでお披露目されました。向こうでは3列シートSUVが当たり前になりつつあり、ビッグなSUVだらけ。これくらいの迫力がちょうどいいと言っても過言じゃありません。
装備的にも特徴ある3連LEDヘッドライトやLEDリアコンビランプ、LEDフロントフォグランプ、LEDコーナリングランプ、リアバンパーガーニッシュなどすべて標準装備。
一方、日本で全長5mはかなりデカめ。いろんな意味で、余裕がある人向きと言えます。
割り切りのラグジュアリー3列シートSUV
肝心のサードシートですが、正直子ども用といったところで、マツダCX-8とは比べものになりません。身長176cmの小沢が2列目に普通に座ったポジションで3列目に乗ると、膝が前のシートバックに付くと同時に、頭は途中で天井につかえるくらい。
ただし小柄な女性や子どもなら十分で、そこは考え方であり、割り切り。実際、ミニバンでも3列目に大きな成人男子が乗るシーンはそれほど多くないでしょう。子ども用、短距離用と割り切る手もあるのです。
それ以上にSUVとしての存在感と安心感を取る。3列シートSUVのとらえ方としては、日本でも十分ありだと思います。
それから3列目の快適性、利便性も特徴で、夏場にエアコンの冷風が届きにくいサードシート用として専用エアコンを標準装備。温度や風量を個別調節できるし、後から電動スイッチ1つで3列目を倒して652Lの巨大なラゲッジスペース作り上げることもできます。なかなか便利です。
インテリアも分かりやすくリッチ。450hLはソフトタッチのセミアニリン本革シートが標準で、オプションでインパネの本木目パネルや本革ステアリング、本革シフトノブも装備可能。レクサスの世界観を気に入っている人にも十分納得いく質感レベルです。
パフォーマンスは文句ナシ
気になる走りですが、ハンドリング、乗り心地共にCX-8ほどのキレの良さはありません。一方でレクサスSUVならではの重厚感があります。
なにしろ全長5mで、車重2.2トン超。それをシステム出力313psという余裕のパワーで引っ張るのです。パワートレインは標準ボディーの450hと同じで、エンジン単体でも262ps&335Nmの巨大パワー&トルクを発揮する3.5LV6に、フロント167ps、リア68psと前後輪に別々のモーターを組み合わせたもの。いわゆるリア電動のフルタイム4WD車です。
おかげで発進からスムーズで、伸びやかさも文句ナシ。高速でもエンジンをフルに使わずに余裕のパワーを発揮します。
ハンドリングは高級SUV然としたややダルめなフィーリングで、実燃費は今回千葉を数10km走って10km/L台ちょいでしたが、頑張れば13km/Lくらいはいくはず。なにしろカタログ燃費は17.8km/L。このサイズとこのパフォーマンスを考えると十分以上でしょう。
最近当たり前のハイテク予防安全も充実。「レクサスセーフティシステムプラス」という、歩行者検知機能付き衝突回避支援タイプの「プリクラッシュセーフティシステム」、「レーンキーピングアシスト」、全車速追従機能付き「レーダークルーズコントロール」、「オートマチックハイビーム」をすべて標準装備しています。
セミ自動運転機能たる、レーントレース機能は残念ながらまだ選べません。
高級車はミニバンか3列シートSUVの時代に
いま高級車界は世界的に変わりつつあります。主に米国、中国でセダンの代わりに大型多人数乗用SUVがどんどん導入され、台数を伸ばしているのです。
一方日本ではトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」に代表される大型ラグジュアリーミニバンが高級車界を席巻しつつあります。月販台数実に7000~8000台。比べると日本を代表する高級セダンである「クラウン」は半分以下。今年のフルモデルチェンジでどれくらい巻き返すか興味深いですが、政治家、芸能人がこぞってこの手の大型ラグジュアリーミニバンに乗り換えているのは事実。なにしろ広くて快適で便利ですから。
確かに日本では道が狭いこともあり、海外マーケットほどは背の高いSUVが伸びません。でも、同じ高いお金を払うならば存在感あるスタイリングとリッチな走行感覚、そして頑張れば6~7人乗れるラグジュアリー3列シートSUVに客が流れても不思議じゃないはずです。
そうでなくとも今の日本の高級車の主流は大型ラグジュアリーミニバンなのです。正直、クラウンがいくらリッチで走りが良くてもどれだけ対抗できるか? だったら同様にゴージャスで、その気になれば人が大勢乗れる3列シートSUVの方がどれだけいいか。合理的に考えればそうなります。
もちろん日本でリッチな人たちは年配者が多く、彼らは身体になじんだセダンにギリギリまで執着するかもしれません。
ですがそれはお金の流れが変わりにくい日本ぐらいのもの。米国、中国ではどんどん高級車観が変わり始めているのです。
それはポルシェやBMWやメルセデス・ベンツはもちろん、ついにランボルギーニまでSUVを出し始めていることからも明白です。
レクサスは既に「LX」という大型3列シートSUVを持っています。今後、高級SUVの3列シート化という流れは、止まらないと小沢は考えているのです。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット2018年3月16日付の記事を再構成]
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