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2018/4/23

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五輪のチケットを入手できずテレビ観戦した人たちが、パラリンピックの会場を埋め尽くした

「以前の組織委は、まず五輪を組織・運営し、パラリンピックはその後に行うべきものと考えていました。この考え方から脱却するのは難しいことです。例えば、選手村の部屋は通常、まず健常者向けに作られ、そこから障害者向けに改装されます。ですが私たちは、最初にパラリンピック用に建設し、後に五輪用に改装しました。これにより、選手村の建物には完璧なアクセシビリティーが備わりました。この考え方は物流にも適用し、組織委の運輸責任者は双方を担当しました。何かを五輪用に作った後、それをパラリンピックの担当者に引き継ぐというやり方よりも、大会をふかん的に見ることができました」

ロンドンパラリンピックで、ヘンリー王子(後列中央)らとゴールボールの試合を観戦するホリングスワース氏(後列右)

だが、五輪とパラリンピックが全く同じ道筋をたどったわけではない。大会準備期間中の最も勇気ある決断の一つは、組織委が、パラリンピック放映権を伝統的ホスト局のBBCではなく、民放のチャンネル4とYouTubeに与えたことである。五輪はBBCが放映したが、チャンネル4はパラリンピックの放映権を900万ポンド(約13億円)という破格の値段で買い取った。組織委は、YouTubeとチャンネル4の革新的な番組制作手法や、企業が支援を広告で表明できる点などにも、大きな魅力を感じていた。

チャンネル4は見事に期待に応えた。ヒップホップに乗せて軽快に映像が差し込まれる宣伝ムービーや、その日の競技結果をユーモアを交えて紹介するコメディー番組「The Last Leg」など、従来とは異なる方法でパラリンピックと障害の話題を取り上げたのだ。「チャンネル4は素晴らしい仕事をしました。パラリンピックは、障害を見せることが普通のこととして受け入れられるきっかけになり得ると、人々に再認識させました」

チケットは手ごろ、半数が約1500円以下

競技会場が満席になった理由は様々あるとホリングスワース氏は考えている。まず、五輪のチケットを入手できず、テレビ観戦していた人々が来場したということだ。加えて、チケットが「お手ごろ」(半数が10ポンド以下、95%が50ポンド以下)だったことが、会場にユニークな雰囲気を生み出した。「家族連れがお出かけを満喫していました。彼らも特別な夏の一部でありたいと感じていたのです」

人々にとって、応援しがいがあったということも大きいだろう。英国は、ロンドンパラリンピックで120個ものメダルを獲得した。これを支えたのが、一般の人々や民間スポンサー、国営宝くじなどによる、チャリティー団体のパラリンピックGBへの資金協力だという。東京大会の目標は、168個のメダル獲得だ。国営宝くじの資金配分を担当する投資団体UKsportは、選手団に7083万ポンドを割り当てている。ホリングスワース氏は、「私たちはリオデジャネイロ・パラリンピックでは147個のメダルを獲得しました。つまりロンドンではもっとできたということかもしれません」と、貪欲だ。

ホリングスワース氏にとって五輪・パラリンピックは、物語の半分でしかない。ロンドン大会は、「人々に活力を与えるものでなければいけない」という、野心的な計画を立てていたのだ。彼は、大会の影響を判断するのは時期尚早としながらも、「ロンドン大会は、『できないこと』より『できること』に焦点を当て、社会の障害に対する考え方を進歩的にしました。人々は、ポジティブで人に勇気を与える障害というものを目の当たりにしたのです」と手応えを感じている。同氏の功績は認められ、16年には女王から大英帝国勲章(OBE)が授与された。

「東京大会のあらゆることが、人々に刺激を与えます。大会関係者は20年を素晴らしいものにしよう、パラリンピックのうねりを大きくしようと、情熱を持って取り組んでいます。これほどうれしいことはないですよ」。ホリングスワース氏は強調する。「ロンドン大会が野心的すぎたと思ったことはありません。一生に一度の機会ですから。パラリンピックを活用し、障害者にとってより良い世界の実現を進めるチャンスは、既に東京の手の中にあります」

(スロージャーナリズムカンパニー マーカス・ウェブ)

[日経マガジンOPEN TOKYO2018年3月30日号を再構成]