トウモロコシの皮で包んだ、鶏肉を使った「サルシータ」のタマレス

森山さんは、定番メニューのバナナの葉で包んだ「豚肉と唐辛子のタマレス」のほか、菜の花を生地に練り込んだもの、トウモロコシの皮を使った鶏肉入りタマレスを用意してくれた。タマレスは多種多様で魚やイチゴを使った甘いものもあり、トウモロコシの葉でおにぎりのように三角に具材を包む地方もあるらしい。

森山さんが出合ったタマレスの中で最も印象深かったものの一つは、南部タバスコ州の緑のタマレス。チャヤという葉を生地に練り込んでいて青い、ハーブのような香りがしたという。「南部では、よくその土地ならではの緑の葉物を使ったタマレスを作ります。だから、日本なら菜の花かなと思って、この食材が手に入る間、季節のメニューとして出しているんです」

「サルシータ」の菜の花のタマレス 葉物のタマレスを売る屋台では、写真奥のようなサルサが用意されていたりする

「タマレスのラードは、ホイップして使います。蒸し上げたとき、香りが豊かでふっくらした食感になるんですよ」。そんな森山さんの話を聞きながらタマレスを食べてみた。トウモロコシの皮で包まれたものが一番この穀物の味を濃く感じるかと思ったら、意外にもこれを強く感じたのは菜の花のタマレス。

菜の花の青い風味がトウモロコシの味も引き立てている。通常タマレスに使うラードではなくナタネ油を用いていたため、よけいそれぞれの香りも風味も口の中で強く広がっていくようで、ちょっと草もちを彷彿(ほうふつ)させた。

一方、豚肉のタマレスはしっかりコクのある味わい。生地には自家製ラードを使い、うま味の強いトウガラシと一緒に煮た肉がふっくらとした生地に入っていた。肉はしっとり軟らかくほろほろとほぐれるほどで、トウガラシの強い辛みは感じない。「メキシコには様々なトウガラシがありますが、必ずしも辛いわけではありません。そもそもどんな味のトウガラシでも辛くするためではなく、うま味を加えるために使うんです」と森山さんは言う。

バナナの葉で包んだ豚肉を蒸し焼きにしたコチニータピビル 写真奥のトルティーヤで包んで食べる

「サルシータ」には、タマレスと同じようにバナナの葉を使ったユカタン半島の名物料理コチニータピビルがあった。アチオテという木の実のペーストやオレンジ果汁でマリネした豚肉をバナナの葉で包んでオーブンで蒸し焼きにしたものだ。肉や紫タマネギのピクルス、ハバネロを使ったサルサをトルティーヤでくるんで食べるのだが、豚肉はあっさりしていて、添えられたライムをきゅっと絞るとボリュームのある肉料理であるにもかかわらず、さっとお腹に収まった。

メキシコ観光局によれば日本からメキシコへの渡航客は昨年まで6年連続で2ケタの伸びをみせ、直行便の増便により2017年には前年比13.6%と大きく伸長、15万人を超えた。「イギリスの出版社が毎年発表する『世界のベストレストラン50』の上位にもメキシコのレストランが入るようになって、グルメ国としても訪れる人の心をつかんでいるんです」と志田さんは言う。これからは、テクスメクスばかりでなく豊かな歴史を背景に持つ本場メキシコの料理も、もっと日本で広く知られるようになるに違いない。

(フリーライター メレンダ千春)