メキシコではタマレス(手前)は、フレッシュジュース(奥)と共に屋台フードの定番(写真=Chihiro Ishino)

このタマレス、家庭料理の定番かと思いきや手間がかかる料理だからだろうか。大方、屋台で買うものだという。教えてくれたのはメキシコ観光局の志田朝美さん。「メキシコには新鮮な野菜や果物をその場で絞るフレッシュジュースの屋台があるんですが、それとタマレスを一緒に食べるのが大のお気に入りでした」と満面の笑みを浮かべる。

「朝ごはんとして食べることが多いんですが、私は早起きが苦手で。愛用していたのは、やはりポピュラーな夜食の屋台。店によると思いますが、よく行った屋台は店開きが夜の9時ぐらいで夜中までやっていましたね」

屋台に置かれているのは大きな寸胴鍋。これでタマレスを蒸し上げるのだ。「鍋の中が区切られていたりして、大抵何種類かのタマレスを売っているんです」。首都のメキシコシティに住んでいた志田さんがよく見かけたのは、サルサベルデという緑トマト(実際にはトマトではなくホオズキ属の野菜)を使ったソースと肉をマサで包んだもの、赤いトマトのサルサ、サルサロハと肉を包んだものや、モレというチョコレートソースを生地に練り込んだタマレスだった(モレとは元来ソースの一種で色々な種類があるのだが、特に有名なのがモレ・ポブラーノというチョコレートソースなのだ)。肉は鶏、豚が定番の材料だという。

オアハカ州オコトラン市場のトウガラシ屋台

「タマレスは普通、トウモロコシの皮で包んで蒸しますが、地域によって違うタイプがあるんです。私が好きなのは南部のオアハカ州のもの。ここではタマレスを包むのに使うのはバナナの葉。メキシコシティでもオアハカタイプのタマレスはよく売っていて、本当においしいんです」と志田さんは言いながら、「想像しただけでヨダレがでそう」と急いで口元を手で隠した。

先住民が多く暮し多彩な文化を持つオアハカは、グルメ都市として有名で「メキシコの食通はみんなオアハカを目指すんです」と志田さん。この地方にしかない食材も多く、薫製にした独特の風味を持つトウガラシはその一つ。また、日本でポピュラーな「裂けるチーズ」はオアハカ名物のチーズ、ケソオアハカが原型。スティック状の日本版とは異なり、本場のチーズは極太糸を巻いた毛糸玉のような形だ。

メキシコの人気メーカーのチョコレートソース味のタマレス 肉も入っている

タマレスはパッケージに入ったものをスーパーなどでも売っていると言い、志田さんは現地の人気メーカー、ラ・コステーニャのタマレスをお土産にくれた。電子レンジでチンと温めるタイプのものだ。チョコレートソースのモレ味で、パッケージを開けると目に入ったのはテラテラと脂が光るタマレスの表面。

ラードを使うため高カロリー食だと聞いていたが、脂をたっぷり使っているのだろう。温めてみると生地はしっとりもっちり。カカオとトウモロコシが混ざった不思議な香りが立ち上ったが、甘味はなくピリッとしたトウガラシの辛さが舌をつく。中には肉も入っていて、これがカカオの風味とよく合ってなかなかおいしい。

さらに本格的なタマレスを求めて、『メキシコ料理大全』(誠文堂新光社)の著者である東京・広尾のメキシコ料理店「サルシータ」のシェフ、森山光司さんを訪ねた。東京でタコスを出すレストランは多いが、タマレスを食べられる店は限られている。しかも、「サルシータ」のメニューには、バナナの葉で包んだタマレスがあった。

「植生の影響だと思いますが、バナナの葉は、オアハカだけでなくユカタン半島を含むメキシコ南部全体のタマレスに使われています。国全体ではトウモロコシの皮の方がポピュラーですけどね」と森山さんは説明してくれる。