クジラやトドが大型化した理由 定説を覆す新研究
陸上にも体が大きな哺乳類は存在するが、地球上で本当に巨大な哺乳類は海にいる。その理由を解き明かした論文が、2018年3月26日付の学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。海にすむ哺乳類は「体温を効率よく維持することと、食べ物を十分に確保することの間で、妥協点を見つける必要があります」。論文の主執筆者で、スタンフォード大学の生態学者、ウィリアム・ギアティ氏はそう語る。
これまでの説では、海洋哺乳類の体が大きいのは、水の浮力によって重力の束縛から逃れられるためとされてきた。それもまだ関係あるのかもしれないが、海洋哺乳類のあの重さは、冷たい海の中で体を温かく保つために必要なものだとギアティ氏は言う。
「海洋哺乳類の体が大きいのは特別な事情があるからです。彼らは大きくなることが『できる』のではなく、大きくなる『必要がある』のです」
大きいほど有利、だが……
ギアティ氏のチームは、一連のコンピュータモデルにより海洋哺乳類の体の大きさに影響する要因を分析したところ、ふたつの要因が決定的であることを発見した。
一つ目は、十分な体温を保存しておくためには、大きな体が必要ということだ。体が大きい哺乳類は、周囲の水によって失われる体温が少なくて済む。これが体の小さな哺乳類に対する大きなアドバンテージとなる。
一方で、体の大きな動物はより多くの食物を必要とする。これがふたつ目の要因だ。大型の哺乳類は、体に熱を封じ込めるという点においてはすぐれていても、その分に見合う食べ物がちゃんと確保できなければ何の意味もない。
英レディング大学の進化生物学者、クリス・ベンディティ氏によると、体の大きさは、動物を研究する上で最も重要なもののひとつだという。
「たとえば、動物の体の中で何かひとつだけ計測をするとしたら、体の大きさを選ぶべきです。なぜなら体の大きさは、ほかのたくさんの要素に関わりがあるからです。もしある動物がどれくらいの大きさなのかがわかれば、彼らがどうやって動くのか、代謝率はどのくらいかといったことが推測できるでしょう」
実は陸上より制約はきつかった
この5年ほどの間に、哺乳類の仲間にはそもそも大きな体を持つように進化する傾向があることを示す証拠が発見されてきた。体が大きい動物は、交尾や食物、その他の資源をめぐる争いでライバルに勝つ可能性が高く、多様な食物を入手できる。
しかしながら、陸生哺乳類には重力という縛りがある。彼らは大きな骨と血管で巨体を支えつつ、同時にしっかりと動けなければならない。ゾウのように体重数トンという動物に進化するのはごくまれなケースだ。
この研究に着手した当初、海洋生物の体が大きいのは、単に陸上で制約として働く重力が、海では関係ないことが確認できるだけだろうとギアティ氏は考えていた。
こうした予想に反し、データが示していたのは、水生哺乳類の最小サイズは、最小の陸上生物よりも1000倍大きく、一方で最大サイズの方はわずか25倍という結果だった。体の大きさは、陸上の動物よりも狭い範囲に収まっていた。つまり、陸上よりも海のほうが制約がきつかったのだ。これは、海洋哺乳類の体がこの大きさに収まる何らかの要因があることを示していた。
ベンディティ氏は言う。何が動物の体の大きさを決定するのか、その謎がまだ完全に解明されたわけではない。それでも生物たちはいまも、あらゆる形、あらゆる大きさへと進化し続けている。
(文 CARRIE ARNOLD、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年3月29日付]
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