5000個のメダル、都市鉱山から 東京五輪で初の試み携帯電話などリサイクル貴金属でつくる

日経ヴェリタス

これで終わりではない。電気分解した後、電解槽の底に黒い「殿物」が残っているのに気付く。実はこれが宝の山だ。「取り出せなかった金や銀がなかに混ざっている」と並木さん。殿物を取り出し、加熱処理したうえで電気分解でさらに純度の高い銀に仕上げていく。炉からドロドロに溶けた銀が流れだす様子に思わずみとれた。完成したばかりの銀の塊(インゴッド)を持たせてもらったが、想像以上に重い。2リットルのペットボトルほどの大きさだが、29キログラムもある。こうして取り出した銅や銀が最終加工されてメダルとなる。

携帯電話100台から3グラムの金

銅や銀をみたが、やはり金も見てみたい。場所を変え、東京・銀座へ。メダルプロジェクトで金の精錬を担う田中貴金属工業の銀座本店に向かった。

ショーケースのなかには金色に輝く装飾品や工芸品がズラリと並ぶ。実はリサイクルで金を取り出すのにもケータイの回収はとても重要だ。一般的に約3グラムの金を取り出すには天然鉱山だと1トン程度の山を掘る必要があるが、ケータイだと100台ほどで済む。「エネルギーのかからないかなり効率の良い取り出し方」。TANAKAホールディングスの島野和子チーフマネージャーはリサイクルの意義を語る。

せっかくなので金塊も持たせてもらった。スマホほどのサイズで重さ1キログラム。ちなみにこの日の金相場で換算すると、なんと500万円ほど。高級外車が1台買える。都市鉱山のすごみを感じた。

日本の都市鉱山の埋蔵量を調べると意外な事実が。実は日本は世界有数の「資源大国」なのだ。サステイナビリティ技術設計機構(茨城県つくば市)によると日本の都市鉱山の規模は金で約6800トン。なんと南アフリカ(6000トン)やインドネシア(3000トン)など資源大国の埋蔵量を上回る。金だけでなく銀や銅も世界有数の埋蔵量だ。材料に貴金属を使った電気製品がそれだけ多く流通している裏返しでもあるが、リサイクル技術を上げて都市鉱山の潜在力をいかせば天然資源の乏しさを嘆く必要はないかもしれない。

さらなるリサイクル資源の回収が不可欠

課題もある。今回のメダルプロジェクトでは東日本大震災で被災した福島県双葉町や楢葉町で過去に住民に配り、使わなくなったタブレットが提供されたという話を聞いた。だが実際には企業や家庭のタンスに眠ったままのケータイや家電製品はまだまだ多い。5000個のメダルをつくるには、さらなるリサイクル資源の回収が不可欠だ。

組織委の杉尾透プロトコール課長は「身近なモノを通じて多くの人が五輪に参加する機会になってほしい」と期待を寄せる。1人でも多くの日本人選手にメダルが渡ることを願いつつもう一度、引き出しに眠るケータイを探すことにした。

(南毅郎)

「+(タス)ヴェリ」は週刊投資金融情報紙「日経ヴェリタス」編集部による連載コーナーです。タスヴェリはNIKKEI STYLEでだけ読めるスペシャル企画で、ミレニアル世代と呼ばれる20~30代の価値観やライフスタイルを、同年代の記者が取材し幅広くご紹介します。更新は不定期です。
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