新しい職場で信頼勝ち取る ヘレンが教える3つの秘訣
"もったいない"脱出の仕事術
コミュニケーションコーチの岩田ヘレンです。4月は新しい職場で働く人、新しい同僚や部下、上司を迎える人が多いと思います。この時期に特に重要なことは何でしょうか。やはり、新しい人たちとの間にしっかりとした信頼関係を築くこと。信頼関係があるかどうかは、仕事の成果や日々の充実感に大きく関わってきます。今回は、信頼関係を高めるために効果的な3つの秘訣を、皆さんとシェアしたいと思います。一部、意外な内容もあるかもしれませんが、どれも私自身がこれまで実践してきて、効果があったものばかりです。
Be reliable! 他人と自分から当てにされているか
1つ目の秘訣は、「Be reliable」。Reliableは「当てになる、信用される」。例えば、「何かを締め切りまでにやりますと言ったら必ずその通りに仕上げる」「会議には時間通りに必ず部屋に入る」などでしょうか。当たり前のことと思うかもしれませんが、必ずいつもできるかといえば、忙しくてできなかったり忘れてしまったりすることはありますよね。皆さんは、自分のreliability(当てになる度合い)は10点満点で何点だと思いますか。ちょっと自己採点してみてください。
今の話は、他の人から見たあなたのreliabilityでした。でも、もう1つ重要なreliabilityがあるのです。あなたは自分自身に約束したことが守れていますか?例えば「勉強会に参加したら、後で必ず復習する」「日記を毎日書く」「健康のためにジムに通う」……自分に対して決めたことは、ちゃんと実行できているでしょうか。自分自身へのreliabilityも、10点満点で採点してみてください。何点ぐらいになりますか?
さて、2通りのreliabilityの点数を比べてみてください。よくあるのが、他人に対してはreliabilityが高くて「当てになる、信用できる人」なのに、自分自身に対してはreliabilityが低く「あまり当てにならない人」になっているというパターンです。
作家のGretchen Rubinは著書「The Four Tendencies」の中で、人は大まかに4つのカテゴリーに分けられる、としています。それは「Upholder(維持する人)」「Questioner(問いかける人)」「Obliger(しかたなくやる人)」「Rebel(反抗する人)」です。
Upholderは何事もちゃんとやる人です。Questionerはなぜやるのか問いかけて、納得すればやります。Obligerは他人に言われたことはやりますが、自分で決めたことはあまりやりません。Rebelは他人に言われたこともやりません。人口比率で見ると、UpholderとRebelは少なく、QuestionerとObligerが大多数を占めるそうです。
もしあなたが、他人へのreliabilityよりも自分へのreliabilityが低い場合、それは「他人によく思われたい、信用されたい」という思いが強いのかもしれません。しかし、自分自身へのreliabilityが低いと、知らないうちに疲労やストレスがたまり、結局は他人へのreliabilityにも影響が出てしまう可能性があります。自分自身へのreliabilityを高めるにはどうすればよいでしょうか。
例えば、友人や同僚に「私は絶対に、ジムに行きます/スキルアップのための勉強をします」のように宣言するのはよい方法です。「いつまでに、どのようにして」実行するかを明確にすればさらに効果的でしょう。そのほか、オンラインなどのサポートグループや、ビジネスコーチの力を借りるのもいいでしょう。皆さんは、他人/自分自身へのreliabilityを高めるために、どのようなことができると思いますか?
自分の「Boundary=境界」を明確に できないことには「No」
信頼関係を築く2つ目の秘訣は、「Boundary(境界)を明確にすること」です。自分がどこまでできて、どこからできないか。その境界がBoundaryです。本当は難しい状況なのに「できます」「やります」と言い続けるとストレスがたまり、仕事が膨大になり過ぎ、失敗を招いてしまうでしょう。連載の初回「仕事の成功と幸せのために、もっと『No』を言おう」でもこうしたことをお伝えしました。
私のクライアントに、グローバル企業に勤める女性がいます。最近、勤務先で新しいプロジェクトがスタートし、彼女はアジア地区から唯一の代表としてメンバーに加わりました。プロジェクトの最初の電話会議が設定されましたが、それは土曜日。しかも日本時間の午前2時、夜中でした。その日は偶然にも彼女の誕生日で、週末は家族と共にスキー場で過ごす予定だったのです。
以前の彼女なら「電話会議の時間を変更してほしい」と言える勇気はなかったのですが、今回はちゃんと自分の希望を伝えました。しかし、他のメンバーの都合で時間の変更はできませんでした。結局、彼女はどうしたのでしょうか。
私がそれを聞くと、彼女はものすごくハッピーな表情で「会議には参加しませんでした!」と答えました。「以前の私なら、きっと家族や自分を犠牲にして会議に参加していたでしょう。でも今回はちゃんと『すみませんが参加できません』と言いましたよ!」
彼女はきちんと、ここからはできませんという自分のBoundaryを明確にしたのです。その結果、プロジェクトのメンバーからは「リスペクトされました」といいます。建前ではなく、オープンに本音を語ってくれる人だと信頼を得たのです。それに、もし無理をして午前2時に電話会議に参加したとしても、あまり貢献できたとは思えませんよね。
自分よりも相手にフォーカス、自己中心度は低めに
信頼関係を築く3つ目の秘訣は、Focus on the other person.相手にフォーカスする、相手のことを考えるということです。
Charles H. Greenらは著書「The Trusted Advisor」の中で、信頼(trust)を構成する4つの要素をequation(方程式)で表しています。それは、
Trust=(Credibility + Reliability + Intimacy)/Self-orientation
日本語にするとTrust、Credibility、Reliabilityはどれも信頼、信用といった似た言葉になってしまうのですが、次のようなニュアンスだと思ってください。
Trustは、目指す信頼関係です。Credibilityは、専門性や経験値の高さからくる頼りがい。Reliabilityはきちんとやってくれる、当てになるという度合い。Intimacyはフレンドリーであること、親しみやすさです。
方程式の分母、Self-orientationに注目してください。「自分志向」、つまり自己中心の度合いです。いつも自分の得を考えて自分にフォーカスしてばかりだと、信頼関係を築くのは難しくなります。これは決して、自分を犠牲にして他人を優先せよということではありません。Boundaryを明確にして、Noを言うときは他のオプションを相手のために提示すればいいのです。
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最近、自己成長に関心を持つオンラインの女性グループで、米国在住のある日本人女性と知り合いました。私はまだ彼女に直接会ったこともなく、知り合って間もないにもかかわらず、彼女との間に強い信頼関係ができていることに気付きました。それはなぜかと考えると、まさにこの「信頼の方程式」で説明がつくのです。
Credibility:彼女はマーケティングの専門家として、私のビジネスに対してすばらしいアドバイスをくれました。今後、そのアドバイスをもとに、協力しながら実行していくのがとても楽しみです。
Reliability:彼女に依頼した仕事は常に、締め切りより前に、すばらしい品質で仕上げてくれます。今は毎日メールをやり取りして新しいアイデアを共有していますが、私の質問にはとことん納得するまで答えを返してくれます。
Intimacy:たぶんこれが最も重要だと思います。最初にオンライングループで私のことを知った時、彼女は「チャットで話せますか?」と連絡してきました。彼女は私のビジネスに対して深く関心を示し、とてもフレンドリーでした。もちろん私も彼女についてもっと知りたいと思いました!私たちはどちらも、互いのビジネスによって、もっと多くの人たちに利益をもたらすことに夢中になっています。
Self-orientation:彼女は自己中心度合いが低いのです。より多くの人に私のことを知ってもらって私のビジネスをサポートしようと、とても熱心になってくれます。
つまり、この「信頼の方程式」は本当に納得できるのです。
あなたが信頼関係を築きたい「誰か」を思い浮かべてみてください。方程式の4つの要素について、あなたは自分がそれぞれ何点だと思いますか?Credibility、Reliability、Intimacyの点数は高ければ高いほどよいですし、Self-orientationは低いほどよいのです。自分の信頼度を高めるために、4つの要素についてあなたはどんなことができるか、ぜひ考えてみてください。
「"もったいない"脱出の仕事術」は今回が最終回になります。毎月のコンテンツをいかにお伝えするか、あれこれ考えるのはとても楽しいものでした。1年半にわたって読んでいただき、メールもたくさん送ってくださってありがとうございました。今後も何か質問があれば、ぜひ気軽にご連絡ください(helen@sasugacommunications.com)。
グローバル・コミュニケーション・コーチ。英ヨークシャー出身、さすがコミュニケーションズ代表。ウイズ株式会社 アドバイザー。日本翻訳者協会理事長、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社コミュニケーション・マネージャーなどを経て2013年にさすがコミュニケーションズ設立。グローバル・ビジネスを想定した企業向けのコミュニケーション・スキル研修などを実施している。著書に「英語の仕事術 グローバル・ビジネスのコミュニケーション」(小学館)。
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